図 書
現代剣道百家箴
偶感
作道 圭二(剣道範士八段)
1、わが国の体育・武道・スポーツ関係者特にその指導者の間にある競技成績至上主義は、すこぶる根強いものがある。成程体育・スポーツは、一面は遊びであり、又楽しみであるが同時に激しい鍛錬と云う反面をもっており、そこに高い価値がみとめられるのである。武道の正しい発展を期するには、この成績至上主義を一掃すべきであり、その為には先ず武道家が、その武道観を確立することが最も必要であると思う。
2、現在全国各地で、指導者・施設管理者の養成充実の必要が叫ばれているが、いま之を妨げているものは、制度上・身分上の不安定、生活の保障の問題だといわれる。熱心な、地方有志の奉仕に甘えて、是れを期待するだけでは限度がある。経済的にも相当の待遇をし、職業として成りたつようにする事が必要ではなかろうか。このような点を軽視しては、実現も実効も期し得ないように思われる。
3、剣の道は嶮しく又厳しきものであるが、更にきびしいのが「師」の道である。良き師たろうとすれば、自らを強く規律しなくてはならぬ。自ら労せずして他にそれを求めても、それは得られない。自らを鍛えあげることだけが他を率いる力となる。最も徹底した自己発見・自己形成だけが、自分を乗り越える弟子を作りあげる道となろう。親鸞は、「弟子一人ももたず候」と云われた。「師」にはなろうとしてもなり得るものではないかも知れない。寧ろ「師」の意識を越えて、強く自らを作りあげてゆき、良き弟子に自らなりきれて、はじめて「師」たり得るのではなかろうか。われ学剣、幾星霜、馬齢を重ねて今更の如くこの道の嶮しさを痛感し、顧みて寂寥莫々たるものがある。
*現代剣道百家箴は、1972(昭和47)年、全剣連20周年記念事業の一つとして企画された刊行物です。詳しくは「現代剣道百家箴の再掲載にあたり」をご覧ください。