図 書
現代剣道百家箴
剣道史の事理
笹森 順造(剣道範士八段)
悠遠なる太古の日本に発祥し、連綿と現代に続いた剣道史の中で、全日本剣道連盟の20年史はその一鎖輪と言えよう。
長い剣道史の中から吾々は多くの尊い事理を学んだ。剣道を学ぶ事で日本民族性の真髄を窺うことができた。日本の剣は中国や欧米の剣の惨虐殺伐な凶器と異なり、生命の起源、生成発展の宝器であり、剣技は太古から都牟賀利の活く太刀による産すびのはたらきをなす神技であると、興味深い神話で画期的に教えられた。日本人独自の見方である。
剣道発達史を見るに始祖が行なったという国土造営と、武器改善の階程と、剣技の進歩とに伴って、独特の法形が創建され、後代各流派の基礎をなしている。例えば日本武尊は「天地人」三段の位を定め、源為朝は「陰陽」二段を加え 「五段之位」を定めた。それより源家一門の剣法が生れたという。爾来中世、近世に幾多の武人によって数多くの流派が創建され500を超えた。武士はこれらを習い、大小(の刀)をその魂と尊び、三百大名は剣道を武士の表芸として奨励した。余慶が続く。
明治維新、藩籍奉還、四民平等、帯刀廃止となっても士族は剣道の郷愁を禁じ得ず、又警視庁・警察、学校、武徳会、町道場で剣道が盛んに行われ、国民の教育鍛錬に資する所大きかった。大東亜戦敗戦、占領軍進駐により、剣道は好戦的・超国家主義的と目され、警察、学校等の教錬課目から禁止された。更に一般社会人にも全面禁止令を出す動きがあったのを、吾等は剣道の本質説明と民主主義の立場から、極力主張して之を阻止し、彼等の理解し得る限度に於いて復興する事に努力した。
起源を日本に発した、惟神惟武の都流技太刀の純一真鋭の剣道は、印度哲学、仏教教義と支那(中国)哲学、東洋倫理に潤色され、日本国民道として発達した。吾等は生死を一剣に任せ、自然と人生の秘理を、その教え、伝書から学んできた。
錬磨の方法としては先人の工夫に従い、真剣の抜斬(林崎流居合の技法)、二躬(同)、土壇斬(同)、刃引の攻防、木剣の組太刀、袋撓の乱打、竹刀の打突等総合的に稽古してこそ完璧に志向し得た。今流行の防具の一定部位を円籌の竹刀で打突する事だけを剣道の全部となし得ない。剣道と言う限り、白刃の下に素肌を置き、一刀両断、殺活自在、創造進化の事理を国民道として学んで来たのである。
吾々は剣道を学んで与えられたこの事理を、次代を荷う青少年に正しく伝え、健全な国民を養成し、進んで外人に剣道を普及し、広く同好の士と力を協せ、剣道の「一即万」の玄理に立ち、分裂闘争の時弊を矯め、万民一体、平和安全世界実現に邁進したいと庶幾うものである。それらは本連盟今後20年間に求められる課題である。
*現代剣道百家箴は、1972(昭和47)年、全剣連20周年記念事業の一つとして企画された刊行物です。詳しくは「現代剣道百家箴の再掲載にあたり」をご覧ください。