図 書
現代剣道百家箴
思い出
千葉 敏雄(剣道範士八段)
私が中学生の時、仙台の武徳会支部に赴任されし持田先生の歓迎試合会が催され、その試合に持田先生は大業の左横面をくりだすと、相手の先生は一寸下がりその横面を流したと思うまもなく持田先生がその流れたのを右肩に丸く取り相手の甲手を打ってしまいました。その美技目にもとまらない業で、今までも眼中にはっきりと浮かびます。後日先生に御話を申し上げた時「稽古又試合に於いても丸く丸くと稽古されるのがかんようである。と云われた言葉は、現在でも心頭に残っています。
私は、常々剣道と居合道は密接不離の関係にあり両立してこそ真の剣の道であると提唱して来ました。一般に剣道人の間で居合をやや簡易の業として見られて居りましたが、大正末期当時門外不出の無双直伝英信流を高知より故穂岐山波雄先生の御尽力を仰ぎ、兵庫県に導入し、無相会を起し、現在に及んで居ります。無相とは禅語で執着を離れた境地のことで、一切の定相を離れた無念無想の大悟を云います。
山岡鉄舟先生の無刀流の真髄にも相通ずる処があると信じて居ります。
昭和6年10月9日、武徳会兵庫支部25周年記念に総裁梨本宮守正殿下の御台臨のもと、私は剣道と長谷川英信流の居合を演武台覧の栄誉に浴しました一世一代の光栄と感泣いたしたのでございます。
山に伏し野にまどろむも
おもしろし
木の葉がくれの月をながめて
此れは京都の故内藤高治範士の好んで微吟されて居たもので私の心に思い出となって居ります。
内外剣道愛好者のみなさん、剣道居合道は今や国内だけのものではありません遠く万国に目を向けて世界的に活躍発展して下さい。
*現代剣道百家箴は、1972(昭和47)年、全剣連20周年記念事業の一つとして企画された刊行物です。詳しくは「現代剣道百家箴の再掲載にあたり」をご覧ください。