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全日本剣道選手権大会(男・女)試合分析報告
試合・審判委員会 委員長 香田 郡秀
「新型コロナウイルス感染症が収束するまでの暫定的な試合・審判法」の運用を受けて、コロナ禍前後の全日本選手権大会(男・女)を対象に試合内容の調査を実施した。調査の中で得られた結果について、以下の通り報告する。
結 果
勝敗の内訳に関して、2021年3月に開催されたコロナ後1回目の大会において、男女ともに2-1の勝敗の増加が確認された(表1)。この結果を受け、より有効打突を競い合う試合内容への転換が予想されたが、コロナ後2回目の大会ではコロナ前と同様の結果を示した。この理由として、試合者が暫定的な試合・審判法の運用に慣れ始めたことが予想され、有効打突取得後の戦い方等への対応が窺える。しかしながら、試合内容が活性化されたことは間違いない。
コロナ後の大会においては男女ともにつば(鍔)競り合い時間の大幅な減少が確認され(表2)、長年共有されてきた「つば(鍔)競り合いの長時間化」という課題が改善された。また、「分かれ」の回数が増えることが予想されたが、「分かれ」は多発することなく滞りない試合進行がなされた(表3)。これらの背景には、試合者と審判員の共通理解を深めることを図り、審判会議と選手打ち合わせ会を合同で実施したことが効果的であったと判断される。
「引き技」の詳細に関して、暫定的な試合・審判法運用下では「引き技」自体が段々と消えていってしまうのではないかという懸念もあったが、むしろつば(鍔)競り合いになった瞬間の「引き技」や、つば(鍔)競り合いになる前の接近した状態からの引き技がコロナ前に比べ、多く発現されるようになり(表4)、「縁を切らない」稽古や試合内容の活性化に今後つながる可能性が示唆された。
有効打突の内訳に関しては、男女ともに引き技での有効打突の減少が確認されている(表5)。これまでに大会や年齢の違いにもよるが、引き技の技術が勝敗の鍵を握る要因であることは種々の学術研究により報告されており、今後、試合展開はコロナ前の試合と様相を変え、引き技ではない技術がこれまで以上に求められると考えられる。
反則に関しては、暫定的な試合・審判法の運用に伴いつば(鍔)競り合いを速やかに解消するようになったことで、これまでの課題であった不当なつば(鍔)競り合いによる反則が無くなった(表6)。コロナ禍の試合・審判法の全てにおいて即座に対応することは難しいため、一定数の反則は確認されているものの、女子大会については反則回数が改善されてきている。男子大会についてはコロナ後1回目から2回目の大会にかけて反則回数が約2倍近くまで増加したという課題も残るが、徐々に減少できると考える。
今後の課題
つば(鍔)競り合いの長時間化という課題が改善され、試合が活性化されたことにより、有効打突を競い合う緊迫感や醍醐味といった剣道の魅力が促進されたと考えられる。一方で、コロナ後1回目から2回目の大会にかけて、男子についてはつば(鍔)競り合い時間の増加傾向が見られた。今後、つば(鍔)競り合い解消に至る時間を「一呼吸」等にするなど共通認識化について検討を図る必要がある。
*この記事は、月刊「剣窓」2022年3月号の記事をホームページ用に編集して掲載しています。