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剣道みちしるべ
第29回 国際剣道のこれから
総務・広報編集小委員会(当時) 真砂 威
今年(2009年)8月、ブラジル・サンパウロで行われた第14回世界剣道選手権大会(14WKC)は、38カ国・地域から400余名の選手が参加して盛会裡に終了いたしました。また、前回の13WKC(台湾・台北)準決勝で米国に敗れるという辛酸を味わった日本の男子団体は、捲土重来をはたし準決勝で韓国、決勝で米国を下して王座に返り咲きました。これで日本は男女個人団体の4冠に戻ることとなりました。強化に当たられたスタッフの方々と監督以下選手団のご努力に心から敬意を表するものです。
さて読者の皆さんは、テレビやインターネットなどを通じて、この14WKCの試合映像をご覧になられたでしょうか。日本国内の大会とは違い、国際舞台における勝負の熾烈さが画面を通して如実に伝わってきます。まさに真剣勝負そのものです。切迫した極限の場面での剣あしらいに、選手の極度な緊張が切実に感じられます。全日本選手権大会などでは闊達な剣風でならすあの選手が…、と、思われた方も多いと思われます。
― いったい百戦錬磨の強者の身に何が起こったのでしょうか ―
視点を少し変えます。全剣連では、伝統文化としての剣道の正しい普及と発展を図るため、剣道の「質の向上」をめざし「審判と指導法との連携」を進めております。
以前、試合時間の大半が鍔競り合いで占められていることが問題視され、それが試合時間が長引く原因になっていると結論づけられました。それをふまえ全剣連では、鍔競り合いに入った場合、「積極的に技を出すか積極的に解消に務めること」の指導を重視します。反則か否かは、「①正しい鍔競り合いをしているか②打突の意志が有るか③分かれる意志が有るか」について、目的と現象を見極めて段階的な基準によって判断することとしました。(『剣道試合・審判・運営要領の手引き』より)
こうした取り組みが実を結び、今のところ国内での主要大会における鍔競り合いの問題は一応の解決をみました。
しかし日本で行っている改善のための様々な取り組みも、外国に伝わるまでにはかなりの年数がかかることを承知していただかなくてはなりません。また全剣連が試合・審判規則を改正しても、直ちに国際剣道連盟(FIK)の規則が改正されるわけではありません。FIK規則の改正にはFIK理事会・総会での決定を必要とします。目下、FIKの試合・審判規則の最新版は平成18年(2006年)12月のもので、新しい全剣連規則は適用となっていません。また『剣道試合・審判・運営要領の手引き』についても、いまだ日本国内での運用にとどまっている状態です。
もうおわかりいただけたと思いますが、これらの指導が行き届いていないWKCの試合において鍔競り合いを積極的に解消するという行為は、直ちに相手に打突の好機を与えることにつながってしまいます。「積極的に解消」しようとすることと「打突の機会を与えない」ことを両立させるため、どうしても過敏な反応とならざるを得ないのです。どうか本領発揮がかなわぬ日本選手の忸怩たる思いを理解してください。
国際化社会の中にあって、日本の伝統文化である剣道を正しく普及、発展させることの難しさを目の当たりにしました。
武安義光会長は、本誌『まど』10月号(第267回)において次のように述べておられます。
「お互い勝利を喜ぶのでなく、国際剣道での日本の役割を果たしたことに満足感を持つことにとどめて欲しいと思います。日本は強くあって、世界の剣道の先頭に立つべき責任と、各国からの期待もあり、今後もその内容の良否が問われます」
国際剣道における日本の役割は、「強くあって世界の先頭に立つべき」であると明言した上で、日本の剣道は「内容の良否が問われる」と言及されています。
良い内容の剣道を世界に示すためにも、日本が取り組む改善への諸施策を、できるだけ早く国際的に進展させることが喫緊の課題であると感じた次第です。
(つづく)
警察では、平成16年に「警察剣道試合及び審判規則」を改正し、禁止行為の中に「鍔競り合いを速やかに解消しないこと」を加え、鍔競り合いの解消途上において打って出る行為や引っ付く行為を反則としました。高体連も同様の対策を講じているとのことです。
*この『剣道みちしるべ』は、2007年8月〜2010年1月まで30回に渡り月刊「剣窓」に連載したものを再掲載しています。