
図書
『令和版剣道百家箴』
「私の剣道修行」
剣道範士 坂井 年夫(山口県)
「全日本剣道連盟主催中堅指導者講習会」
昭和55年6月、全日本剣道連盟主催剣道中堅指導者講習会があった。梅雨期7日間、奈良県(柳生の里、正木道場)にて。私にとって最も厳しい修行であった。
朝5時起床、消灯8時。受講者55名、常任講師4名。私は講師の世話係を最後の閉会式まで務めた。
一番気を遣い困ったのは、雨模様に悩まされたことだ。1回の稽古が終わるごとに、汗でベトベトの稽古着3〜4枚。予備はあっても悪天候に乾かないので、就寝前に我々の食堂「1キロ下山」のボイラ室の煙突に掛け、翌朝20分早く起きて下山。講師の稽古着、少しは軽くなってはいる。2、3枚を持って道場まで駆け上がる。大変苦労をした。
修行の合間をぬって、柳生一族の菩提寺芳徳寺の住職の講話を楽しく拝聴した。柳生一族の墓所にも線香を炊くことができ、楽しい課外活動の一端としての 授業であった。
朝食は1キロ下山、荒物店の2階が食堂。終われば1キロ駆け上がり次の科目が待っている。期間中落伍者もあったが、ただ我が人生に必要な条件でもあった。
「立会い・代表選手としての対外試合」
ここで自分なりに対外的な剣道が必要と思い、県体、西日本大会、国体選手予選会など試合には何んでも出ていく。試合根性を育てる絶好の機会だ。
運良く国体に出場したが、思うようにはいかず課題は山積。国体その他の大会の出場切符は手にすることができても、全国ネットには「まだまだ」反省修行。これが頂点ではないぞ。
剣道の極意は技ではない。実績でもない。我自身も、目には見えない誰知らずの修行で築き上げた精神力が心技一体。立ち会いに於いても相手が萎縮する。それが剣道の極意である。
敵の動きを察知するために、動けば先取りされること多く、我精神的修行の薄暮を曝し出す事になり、真意して品位風格、生生堂々の相手に劣らない構えが不可欠。
こんなことで八段合格を夢見るのは虫が良すぎる。
戦いに挑む前に、心技ともに構えは出来ているのか。
県代表選に出場したが、快心の技は皆無。我自身の特技は何にも持っていない。
今回久しぶりに思いがけなく、国体出場のキップを手にした。
試合は先鋒、次鋒、中堅、副将2対2となり大将決戦。相手は八段。全国ネットで最高の横綱。我「負けてもともと」死を覚悟。待て、矢庭に正しい剣道を正しくやるのが我が任務。立ち合った瞬間「天と地」だ。相手と互角だ。先々の先で1本先取。我機を許すことなく、正しい剣道正しく面を目掛けて2本勝ち。正に夢とはこのこと。我実力とは思えず、相手先生の調子が悪かった。実力を乗り超えた名場面、私の思い出の一つである。先生有り難うございました。
「剣道八段を夢見る」
昭和39年11月、日本武道館で七段合格、翌日からの稽古に少少気分的に緩みがきている。師匠が、今の稽古で、なにを目標に稽古をしているのか、今の自分の剣道に満足しては駄目だ。勝つことも大事だが、基本を身を入れてやれ。正しい剣道、正しい基本は、初心に帰ること。
自分の稽古方法は、道場の人形面打ち。足捌きによる腰下腹丹田、上体の姿勢、肩、肘、手首の柔軟性、仮想敵を連想して動きを捕らえる。また、自分の体の動きなど、研究はいくらでもある。
仮装敵を想定すれば、敵の生きた目つきが怖く、我敵の間の内に入れない。この想定に早く、このような面打ちが続く稽古方法が単純だが剣の極意大切。師匠 猛訓。
正しい正眼の構えは、打たれることはあり得ない。自分が敵を攻め1本先取する為の孤擬心は極めて危険。自分の構えは必ず乱れる。剣道のみならず剣の教えである。私の師匠猛訓。
剣道は先ず姿勢を正し、心の修練、豊かで円満な心を持って練り上げた技は、我が永遠の特技である。
心技一体、我身についた心の落ち着き、品位を審査会場でお見せできるものは 私には何もない。これで剣の神技があろうとは、完全燃焼空振り三振。
お月様、円い心を教えて下さい・・・一生懸命頑張ろう。我が師匠猛訓
極意は他人の口傳から傳受できるものではない。我が修行の尊さから神技が宿る。
「剣道京都大会 八段演武」
京都大会演武は「男の花道」。ただ楽しみのみならず、全国各地から剣豪ずらり。名勝負を拝見して、大先輩の演武は、帰途車中時間を忘れプログラムを拝見。楽しみ教えは、京都上洛のお土産である。
脚捌き、体の運用、手首の冴え、触刃の間合、交刃は、打突の間など見所を逃さず、プログラムのメモは大きな参考資料。
京都大会は、あの当時から60回は上洛している。100歳に留まらず夢を追う事が剣道の修行。今少し頑張らなくては剣人にはほど遠い。
私の演武に胸を貸して下さった多くの剣友に感謝。
「結 び」
剣道を修行することは、健全なる心身を錬る、磨く、同時に「剣道の理念」に基づく豊かな人間性をもって青少年健全育成に尽力する事が文化国家の建設の基礎となり、もちろん、体位向上につながる事が条件であり、常に体の調整をとり、高尚な品位を以て剣道の特性を通じて礼節を尊び、信義を重んじ、誠を尽くし、自信ある体位の錬磨により、剣道修行上、必要な体力が持続できる事が鉄則である。
もちろん剣道には勝負があり、培った体力により、相手から試合を要求されれば引き下がる事はできない。品位、風格と同時に勝敗には奥深い技術の競り合いがあり、最後の蹲踞には相手から、尊敬の念で見る技倆が涵養である。
国際交流、親愛なる剣友、只剣技のみならず全剣連の剣道の理念を咀嚼し、我々の剣道修行の神髄を共に修行するものである。(受付日:令和6年6月25日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。