
図書
『令和版剣道百家箴』
「剣道指導者として」
剣道範士 伊藤 陽文(神奈川県)
一、少年指導について
指導者は先ず「剣道の理念」(目的)「剣道指導の心構え」(目標) を踏まえ、少年たちが将来社会に出て、各分野で活躍できるようになることを最大の目標とすべきである。
したがって、幼少年には技術的なこともさることながら剣道に取り組む正しい心構え、父母や先生を尊敬し、感謝の気持を忘れず、仲間を大切にし、共に励まし合い、競い合う心を育てることなど、「気品」と「礼節」をわきまえた「人間として正しく生きていく基礎」をしっかり指導する必要がある。
少年時代に身体を鍛え、精神を磨き、心を育むことは非常に大切なことである。
剣道の良い所は身体を鍛え、相手に立ち向かう対抗力がつき、精神的な粘り強さが養成されるほか、人との付き合いにおいて礼儀作法をはじめ人間として正しく生きる基本が身につく等である。
剣道を通じて青少年の健全育成を図るためには、常により効果的な指導体系と方法論を確立していくという目的意識が必要である。
山本 五十六元帥の言葉に「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ。」があり、又先人の言葉には「上手に習い下手に学べ」「教えるは学の半ば」等がある。
二、稽古について
剣道の稽古は、基本動作と対人技能の習熟度を高め、有効打突である「一本」を実現するための総合的な能力を体得するものである。
会心の一本を打突するには、「打って勝つな、勝って打て」の教えのとおり、高段位を目指すなら、「気で勝って、理で打つ」剣道を実践しなければならない。剣道は一生をかけて修行し、上達を目指す武道であり、会心の一本は理にかなった剣道から始まる。
「四戒」を去り「さあ打ってみろ、突いてみろ、こなければいくぞ」の気構え、身構えで相手と対峙し、ここぞという時失敗を恐れず、思い切り身を捨てて勝負する。攻め合いから崩す、引出す、捨て身で打突することに集中して稽古することである。
三、攻めと捨て所について
攻めは「無形の攻め」と「有形の攻め」の2つに分けることができる。
「無形の攻め」とはいわゆる「気攻め」のことで形には現れない。また「有形の攻め」とは「剣攻め」「体攻め」であり、中心を取り合い、剣先の攻め、体の動作による攻め、足を使った攻め等、多種多様である。
「有形の攻め」の第一は「間合の攻防」であり、相手に付け入らせることなく中心を取ることにより有利な打ち間をつくらなければならない。その「間合の攻防」の主たるものは「足遣い」と「剣先の操作」である。
その要点は(一)中心を取って、相手に詰めよる。(二)中心を強く押さえ込み、相手の変化を封じる。(三)中心を譲って、相手の技を引出す等があり、それぞれ「表から」「裏から」「上から」「下から」などの方法があり、どの様に攻め、いつどこで捨てるかが大切である。
四、心の持ち方について
打突に至るまでの心の持ち方として、勝 海舟は「我未だ事を成さざる時『小心翼々』、我まさに事を成すべき時『大胆不敵』、我事を成したる後『油断大敵』」と言っており、徳川 家康公は 「我未だ志を得ざる時『忍耐』の二字を守れり、我正に志を得んとする時 『大胆不敵』の四字を守れり、我志を得て後『油断大敵』の四字を守れり」との言葉を遺している。
これを剣道に置き換えると、それぞれ「打突前」「打突時」「打突後」の心の持ち方に通じるものがある。又、高野 茂義範士は「技前」として「攻めて(位攻め)、我慢して、油断せず、判断よく、決断して、捨て身にて打ち切る、残心」と、一本の技が完成するまでの心の持ち方を説いている。
私は指導者として以上のことを常に念頭に、今後も一途に剣道修行に励む所存であります。(受付日:令和6年7月18日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。