
図書
『令和版剣道百家箴』
「私の剣道雑感」
剣道範士 武藤 久夫(東京都)
日本の文化遺産である剣道は、心を打つ武道であり、現在の世界、世代を問わず年を追って盛んになりつつあることは誠に喜ばしいことであると思われます。
ただ、日本国も現今の社会状勢から単独民族国から多民族国に変りつつある状勢のなか、人心が剣道修錬の目的を真に理解し、その修錬をしているか、ただ単に打った打たれたの勝負心にのみ走っているとしたら誠になげかわしいことであると思います。
私は、19才で千葉県の片田舎から警視庁警察官を拝名し、剣道一筋で今日に至っておりますが、憲法は勿論、剣道の剣すら知らなかった者がよくもここまで来られたと自覚しております。剣道は竹刀を媒介として、0コンマ1.2の早さで競う体感武道であり、竹刀を通じて自得し体験した行の集積ですが、今日の銃器、核弾頭等のような科学の発達した時代にはとるに足らないものであると思われます。しかし、剣道を学ぶことにより精神と心身を鍛え、いかなる場合にも応じうる精神と身体をつくることが剣道の意義でこれを失うことはないと思います。
私はこのような剣道を学ぶにあたり、多くの先達の先生方から次の貴重な教えを受けております。
◯基本の大切さ、心の剣道を。
◯剣道の稽古は竹刀を真剣の考えで使い、身を捨てて錬磨することが大切である。
◯攻め勝って打ちなさい。
◯剣の極意は迷った時は半歩前に出ることである。
◯打つべき機会には遅れても前に出て打つ癖をつけなさい。
◯打つ機会がなければ打つな、機会を作って打て。
◯剣道は打つばかりが剣道ではありません。
この教えを素直な心で聞き、実践躬行するかしないかは本人の自由でありますが、教えて下さる師は少しでも弟子を良くしようと教えて下さるのですから有難く拝聴し早く実践し百錬自得することが良い結果に繋がるのではないでしょうか。折角の良い指導を受け、教えを聞いても修行せず聞き流し受け流しの頑迷では、何時になっても良い結果を期待することは出来ないと思います。
私は総てに於て「策を要しない」を信条としています。策を要しないことが成功の秘訣であると信じております。(受付日:令和6年8月1日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。