
図書
『令和版剣道百家箴』
「現在の剣道における課題と将来の剣道愛好者に伝えたいこと」
剣道範士 三宮 一宏(佐賀県)
1、現在の剣道にあける課題
直面しているのは、剣道人口の減少、引いては、継承者の問題です。本年(2024)7月には、4年に1回のパリ・オリンピック大会(パラリンピック)が開催され、一方、地球上では、覇権争いが激化、各地で武力紛争が勃発していて、多くの被害者、特に弱者の女性、子供達が、その犠牲者となり、多くの難民も発生しています。このような中で、我が国でも外交問題と共に、少子高齢化問題は、剣道界においても、大きな課題を迎えようとしていて、まさに剣道人口(参加者)後継者の減少は、避けて通れない問題であります。
先般、日本中学校体育連盟(中体連)は、2024年6月8日、全国中学校体育大会(全中)の規模縮小のため、2O27年度から、19競技のうち、水泳、相撲等9競技を取りやめると発表しました。このことは、少子化の対応や指導(教員)の負担軽減の観点から、(2024.6.9付 佐賀新聞)、今回剣道は、残留となっていますが、今後も見守っていきたいものです。
現在の生活環境の変化は、パソコン、スマートホン、生成AIと、青少年の考え方にも、大きな影響となり、数年代前の風潮に似た、3K(きたない、きつい、きけん)で、再び剣道も敬遠されないか、苦慮しているところです。
「剣をとっては、日本一の、夢は大きな少年剣士」。昭和20〜30年代、ラジオ、テレビ放映された人気番組に、当時、若輩者の愚生も、夢中になった記憶があります。同様の社会現象が、もう一度あれば、幼稚な発想に苦笑しています
こうした中で、今、田舎の町道場では、少し変化が生じています。入門してくる子供達の中に、明らかに発達障害ではと思われる児童の参加者が増えております。その子供達の保護者に尋ねてみると、
⚪︎他のスポーツより指導の先生が身近に感じるから
⚪︎入会費等、経費が、他の競技より安い
⚪︎大きな声(奇声)を挙げても目立ない
⚪︎子供達が嫌がらない
⚪︎但し、正座と黙想は苦手である
などで、今後、障害者スポーツ大会との関係も考慮した指導も必要ではないかと、思料されます。
2、将来の剣道愛好者に伝えたいこと
剣道修業の目的は「剣の理法の修練による人間形成の道である」と昭和50年に、全日本剣道連盟から「剣道の理念」が制定、通達されました。それまで我が国は、昭和20年の敗戦以来、全面的に禁止されていた公の組織的武道剣道の活動が昭和28年に解除されて、日本古来の武道文化が開花となりました。
しかし一方では、国際化が激化して、外国人の剣士が、熱心に剣道の稽古に励む、その真剣な態度には、一瞬驚きさえ覚えます。そうした中には、剣道の実技のみならず、日本剣道形、理合等に至るまで、熱心に質問する人もいて、その意とする回答がなされなければ、外国人特有の感覚で、相手を完全に無視して、以後は、日常の挨拶も無い有様です。剣道は、日本が武道文化の発祥地であり、これからは、剣道の実技はもとより、日本剣道形に至るまで、今まで以上に「剣道の理念」に向って、真摯に取り組んでおくことが肝要だと思います。(受付日:令和6年7月24日)
参考文献:『日本剣道形の一考察』 井上 義彦 著
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。