アンチ・
ドーピング
大麻濫用の懸念(コラム26)
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止物質リスト(禁止表国際基準2019)S8には天然カンナビノイド(大麻、ハシシュおよびマリファナ等)があげられている。
大麻はかつて、日本中に生息し、その煙を吸うと多幸感、鎮痛効果等により農作業の疲れが癒やされることから古代から使用され、大麻草自体は現在でも神道の宗教儀式には欠かせない道具となっている。お祓いの際に用いられる神具、大麻(おおぬさ)には榊などの枝先に和紙と共にやわらかく細い紐状の繊維が結びつけられているが、それが大麻である。
吸引の副作用としての幻覚、妄想、依存性は他の麻薬と比較するとさほど大きくはないため、現在、オランダやカナダ、米国カリフォルニアなど10州と首都ワシントンでは嗜好用大麻として合法化されている。
日本の法律では大麻の所持、栽培は罰則の対象となるが吸引行為そのものには罰則規定がない。警察庁の今年の統計によると20代、30代の大麻事件の摘発者数が急増し3,578人の過去最高を記録した。
一方、アメリカニューヨーク州では嗜好用大麻の合法化により、巨大大麻市場が生まれ、約2億5,000万〜6億8,000万ドル(約280億〜760億円)の税収が見込まれ、公共交通の整備などに充てる方針だという。まるでタバコと同じような扱いになりつつある。タバコのような発がん性がないことがかえって合法化の追い風になっているようだ。
濫用することにより、知的水準が低下し夢幻状態や錯乱、せん妄等を生じることは精神科領域で明らかにされており、将来、欧米のような大麻カフェなどが出現し、若い世代の「軽い気持ちでちょっと…」をいかに防いでいくかが課題である。
アンチ・ドーピング委員会
委員 朝日 茂樹
* この記事は、月刊「剣窓」2019年8月号の記事を再掲載しています。