アンチ・
ドーピング
青少年の薬物依存防止について(コラム10)
本年1月29日、30日、世界ドーピング機構(WADA)と日本ドーピング機構(JADA)により、2015年版新ドーピング規定の導入に際し、アジア国際セミナーが開催された。スポーツの権威を尊重し、各国が連携して公平、公正を維持、発展し続ける手法が議論された。中でも青少年に対する「教育」の重要性が改めて強調された。
競技に親しみ、トレーニングにより世界的なレベルの競技能力を発揮できる10代から20代の青少年を取り巻く環境は大きく変わりつつある。トレーニング理論・方法や栄養学の発達などに加え、何より大きいのはインターネットによる情報の取得、共有であろう。かつては、大学図書館に行かなければならなかった文献が自宅のパソコンで手に入り、一部の口コミ情報が瞬時に多数で共有され、違法な薬物と知りつつも注文すれば自由に手に入る時代となった。かつては「シャブ」と呼ばれた覚醒剤についても「エス」、「スピード」、「確実なやせ薬」などと名を変え、使用法についても注射から「あぶり」による吸引まである。
2004年の8万人規模の無記名自記式中学生意識・実態調査では、約200人に1人が大麻あるいは覚醒剤の使用経験を有している。近年では、青少年の身近にせまる違法薬物として、覚醒剤、大麻、MDMA(合成麻薬)があり厚生労働省は注意喚起している。特に大麻(マリファナ)は、日本の各地に自生し、その煙を吸うことにより独特の陶酔感、幻覚作用と依存性が生じる。欧米では、この使用について特に罰則規定を設けていない国や州もあるため、それを根拠に法的規制の緩和を求める向きもある。その背景には「他人に迷惑をかけなければ個人の自由」という主張がある。さらに同世代の仲間、友人との関係を横並びで維持しなければ「生きにくい」時代であることが予想される。「個人の自由には大きな責任を伴っている」ことは昨今の人質事件でも明らかである。いったん違法薬物に手を染めると身体的、精神的にも取り返しのつかない事態になることを多感な時期にわかりやすく認識させることが肝要と思われる。
アンチ・ドーピング委員会
委員 朝日 茂樹
* この記事は、月刊「剣窓」2015年4月号の記事を再掲載しています。