アンチ・
ドーピング
自転車ロードレースとドーピング(コラム19)
スポーツ史上、ドーピングによる初めての死者が出たのは、1896年の仏ボルドーとパリ間の自転車レースと言われています。自転車競技の精神的、肉体的負荷は一般人の想像をはるかに超えるもので、例えばツール・ド・フランスでは、アルプス山岳地方を巡る高低差2000m、全長3500㎞以上を3週間にわたり走破しますが、その総合優勝者には45万ユーロ(約5500万円)と大きな栄誉が与えられます。
その歴史は(失礼ながら)ドーピングの歴史ともいえ、覚醒剤などは当初から蔓延していたために先の死亡事件を生じました。やがて1998年にはフェスティナ事件(代表チーム全員が大量違法薬物を使用)が発覚、その後は血液の酸素運搬能力を高める違法薬物や手法が開発されたため2008年にWADA(世界ドーピング防止機構)が血液ドーピング検査を導入せざるを得なかったといういわくつきの競技です。
このような状況下に、日本の梅肉を用いたエキスで自転車競技選手を支えてきた公式スポンサー会社が、自社の製品の潔白を証明しようとして英国の権威ある食品分析機関に依頼したところ、ごく微量の禁止物質に指定されているステロイドの一種が含まれていることが明らかになったというのが、先ごろのサプリメント騒動の顛末です。悪意なき「やぶへび」のような話ですが、サプリメントに対する警鐘となりました。この公式スポンサーの社長さんは大変正直な方で、この結果を早くから公表するとともに、栄養補助食品としての安全に問題がないことも強調されています。
自転車競技での舌を巻くような不正行為はその後も続いており、最近では史上初の「メカニカルドーピング」といって、車体の中に小さな「隠し電動モーター」を組み入れた競技自転車が発覚しています。剣道でいえば竹刀の柄を少し振れば先端が素早く打突部位をとらえるようなものなのでしょうか? われわれの想像の域をはるかに越えたものです。
アンチ・ドーピング委員会
委員 朝日 茂樹
* この記事は、月刊「剣窓」2017年8月号の記事を再掲載しています。