アンチ・
ドーピング
スポーツ愛好家における医薬品の不適切使用(コラム47)
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)によれば、ドーピングとは「スポーツにおいて禁止されている物質や方法によって競技能力を高め、意図的に自分だけが優位に立ち、勝利を得ようとする行為」と定義しています。言い換えれば、競技においてズルをして勝利することであり、それを阻止するため、尿や血液の検査があり、基準値を超えると厳しい罰則を受けることとなります。多くのアスリートは、罰則を受けることがないよう、緊張感のある生活を送っており、剣道選手も例外ではありません。
しかし、ドーピングはトップ選手のみに関わる話、と言うわけではありません。2024年7月にスポーツ庁と日本製薬団体連合会は、「スポーツにおける医薬品の不適切使用の防止に関する共同宣言」に調印しました。これは、一般のスポーツ愛好家による、医薬品の不適切使用への懸念が背景にあります。もう少し具体的に言えば、筋肥大を目標とする人が増加したことに伴い、一般のトレーニング愛好家の間にもドーピングの禁止物質を含む筋肉増強剤の乱用が広がっているのです。筋肉増強剤が、簡単にインターネットで入手できたり、病院に行けば筋肉増強外来として注射を打つこともできたりと、今まで以上にドーピングが我々に身近な存在になっています。一部のWEBやSNSなどでは、「スポーツ愛好家のドーピングは問題がない」と主張する医療機関などが見受けられます。しかし、このようなWEBサイトなどは、薬物使用による効果を強調し、副作用に関する説明が不十分であることも多く、専門家からも危険性が指摘されているようです。
日本では、2018年に「スポーツにおけるドーピング防止活動の推進に関する法律」が制定され、ドーピング行為を禁止していますが、罰則は伴いません。これは、アスリートにとって、競技会への出場資格停止などの処分で抑止効果は十分という考え方に沿っているようです。しかし、一般のスポーツ愛好家については、このような考え方では抑止効果は期待できません。順天堂大学大学院の谷本道哉教授は「法律で(治療目的以外での)アナボリックステロイドの所持を禁止にする議論も必要です」とも語っています。
剣道愛好家としては、自身がドーピングと無関係ではないことを理解するとともに、ドーピング防止についてさらに関心を寄せていきたいものです。
アンチ・ドーピング委員会
委員 小澤 聡
* この記事は、月刊「剣窓」2025年2月号の記事を再掲載しています。