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段位審査に向けて
第1回 蒔田 実範士に訊く
『剣窓』の読者は、剣道に関し熱心であり、またその多くが実際に稽古し、段審査を受審されていると思われます。そこで、日頃の稽古で気をつけなければならないこと、また、審査に臨むに当たっての心構えなどについて、範士の方々を中心に伺う企画を立ち上げました。
第1回目は、称号・段位委員会の蒔田 実委員長に、インタビューをお願いしました。
篠原政美編集委員長(以下篠原)
まず「審査に臨む心構え」についてお伺いできますか。
蒔田 実委員長(以下蒔田)
六段以上を受審される方々は、日頃から稽古を十分積んでおられると思います。着装や礼法といった基本的なものは、日頃から気を付けておられると思いますので、今日はそれ以外について、私の思っていることをお答えしたいと思います。
篠原
私も剣道を子供の頃に習い始め、中断した時期はありますが現在も続けております。一番最初にお伺いしたいのが、「攻め」「相手を使う」についてです。
蒔田
相手との攻め合いの中で、どう崩して打つかが大事だと考えています。一足一刀の間合から、相手の陣地にどうやって入っていくか。
まず、右足を半歩または一歩出し間を詰める、そうすると相手に「驚懼疑惑」の念が浮かび、手元が上がる、開くなどの反応が起こると思います。相手の反応を感じ、自分の技を組み立てるためには洞察力が大事になります。
例えば、相手の手元が開く人には面、手元が上がる人には小手、左手が上がる人には胴、あるいは相手を引き出して打つというようなことが考えられるでしょう。
篠原
自分を振り返って見ると、剣先の攻防で終わっており、もう半歩入ることがなかなかできていないと思います。
蒔田
一足一刀の間合の剣先の攻防は当然大事ですが、同じくらいの技量の方だと剣先の攻防だけではなかなか動じてくれません。審査の場合は、上手の先生に掛かる稽古と違い、同格の相手と対峙するわけですから、日頃の稽古で攻めを身につけることを心がける必要があります。攻め崩してから打つことが大事です。
篠原
「打つべき機会」と「溜め」について教えてください。
蒔田
同格の相手だと一足一刀の間からでは、なかなか打突の機会を捉えるのは難しいので、半歩相手の間に入る勇気が大事です。打つべき機会を感じる力は、やはり稽古で身につける以外にないでしょう。
「攻める」「溜める」「打ち切る」についてですが、例えば、自分が右足を半歩出し、相手が開こうとしている短い時間の中で、「攻めながら」「溜めながら」「打ち切る」という進行形の状態だと思います。相手が開くと言っても人により色々で、パッと開くや、ズッと開くなど、相手の崩れ方をみて打つことも必要になります。
篠原
姿勢について、特に「中心軸を立てる」についてお伺いしたいのですが…。
蒔田
右足は攻め足、左足は打ち足と言われてます。攻める場合、右足を出しますが、腰から攻めると中心軸はぶれません。左足は体を支えるのに重要ですが、よく爪先立ちの方を見かけます。これでは体をきちんと支えてるとは言えないですね。
打ち込む時、右足で踏み込みます。その人の体格にもよりますが、深く踏み込んで腰も付いてくることが大事です。
篠原
私の場合、よく攻めないまま打ち込むので、右足の踏み込みが浅くなり、前傾姿勢になりがちです。
蒔田
右足で一足一刀の間合から奥に入り込み、腰で打つことを心がけ、手打ちにならないよう気を付けてください。
篠原
打突についてですが「響く打ち方」をするには、どうすればできるようになりますか。
蒔田
まず、竹刀を持つときの指の使い方です。私は先生から「親指で中指を抑えるように」と指導を受けました。
そうすると、手のひら全体を使って力の入った握り方にならず、ゆったりとした握り方になると思います。
この握りのまま打突時は、手首のスナップを使って、よく言われるように「右手は押す」「左手は引く」ことで、冴えた打ちが出るようになると思います。
篠原
いわゆる「枯れた剣道」についてはいかがでしょうか。
蒔田
確かに、若い時は技の種類も多いですが、年齢を重ねると少なくなります。また、歳を取ると間が近くなり、スピード・パワーが無くなります。
一足一刀から半歩入り、自分が動じることなく相手を動じさせ、相手を洞察し、打つ時は潔く打ち切ることです。
呼吸が乱れないようにすることも大事です。息が上がらないように余計な声は出さず、余計な動きをしない、いわば省エネ剣道です。
無駄打ちをせず、相手を動かして、要所、要所で打突すればいいのです。打つ本数は少なくて構いません。
打つべき時打てば、打突の強さは関係ないと思います。ただ、躊躇いがあるとダメですね。捨てて打たないといけません。
篠原
最後に審査に臨むに当たって、日頃の稽古で気をつけておくべきことがあれば教えてください。
蒔田
例えば、八段の審査時間は2分です。自分の剣道を2分間の間で見て貰うわけですから、日頃の稽古の仕方を工夫して頂きたい。審査の時間帯を意識した稽古も必要です。長い時間稽古すればいいというものでもないでしょう。
また、審査で感じることとして、折角いい技を決めた後、安易に面に飛び込んで抜き胴を打たれる光景をよく見ます。これは勿体ないですよね。やはり打たれてはダメです。せっかくの自分の一本が台無しになってしまいます。
最後に、日頃から自分なりの課題を設定し、稽古することが大事だと思います。
*段位審査に向けては、2021年5月号から2022年11月号まで全19回に渡り月刊「剣窓」に連載したものを再掲載しています。役職は、掲載当時の情報をそのまま記載しております。