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段位審査に向けて
第13回 水田 重則範士に訊く
篠原政美編集委員長(以下篠原)
第13回目として、全剣連常任理事(社会体育担当)の水田重則範士にお話を伺います。
水田 重則範士(以下水田)
剣道を言葉で体系的にお話しすることは難しいので、学生時代、前職の教員時代の経験、そして現在携わっている剣道社会体育指導員の養成講習会を通じて感じていることを中心に、お話ししたいと思います。
◎人格形成をはじめ現在に繋がる基礎を築いた高校・大学時代の稽古
篠原
先生の高校時代・大学時代の稽古はどんな様子でしたか。
水田
佐賀龍谷高等学校の恩師の戸田能徳先生は、礼儀作法に厳しく、剣道の指導でもそれを一貫されました。試合においても単に勝った負けたではなく、対戦の内容が良くないと指導を受けました。それは今の私の人格形成の基礎となっています。
父の勧めで中京大学に進み、剣道を学びました。指導陣の三橋秀三先生・近藤利雄先生・惠土孝吉先生・林 邦夫先生にお世話になりました。特に「足」を重視した指導を受けました。当然「技」は大事ですが、その「技」を活かすためには、土台である「足」が出来ていなくてはいけません。惠土先生の指名を受けての掛かり稽古は、縁を切らず、ときに30分に及ぶかなりキツイ稽古でしたが、そのお蔭で今があると感謝しています。長時間の掛かり稽古によって、足腰の鍛錬だけではなく、打ち間への入り方、バランスの取れた打突の姿勢、打突後の適正な姿勢等を身に付けることができました。
◎「水田道場」での日頃の指導
篠原
日頃指導されている「水田道場」は、どのような経緯で始められたのですか。
水田
「水田道場」と名前は付いていますが、道場を構えているのではなく、元々は茨城県の要請で始めた2年間の剣道の公開講座で、稽古は週1回でした。対象は主に成人で、初心者から有段者まで様々なレベルの方がいました。その後、私が転勤したことで中断したのですが、再開してほしいとの要望があり、現在は中学校の体育館をお借りして稽古を継続しています。
篠原
どのような指導をされているのですか。
水田
「日本剣道形」および「木刀による剣道基本技稽古法」による基本の稽古を大事にしています。
八段取得後、剣道社会体育指導員養成講習会で実技の担当をした際に、自分自身がうまくできてないことに気付かされました。改めて勉強し、基本の大切さを痛感しました。若い時から「足」の重要性は知っていたつもりでしたが、教える立場で振り返ってみると、やはりできていない部分があったのですね。「足捌き」「体捌き」、特に「送り足」の重要性に気付きました。
もっと基礎的なことについても、「竹刀の握り方」から始まり「立礼」「蹲踞」「立ち方」「竹刀の納め方」などをひとつひとつ確認しながら行うことがあります。
道場には幅広い年齢層・レベルの方が通ってこられますが、皆で一緒に稽古しています。剣道形についても週1回、礼法から丁寧に勉強しています。
篠原
「理合」「品位」「風格」を身に付けるにはどうしたらいいのでしょうか。
水田
私もまだ十分ではありませんが、剣道形の勉強を通じて身に付いてきたと感じています。剣道形には、礼法に始まり、足の運び方・打突の機会など、剣道のすべてが凝縮されています。
◎一人一人に合った指導を心掛けて
篠原
指導のポイントがあれば教えてください。
水田
道場には、 60歳近くに八段に合格された方がおられますが、公開講座で剣道教室を始めた当初から片道1時間の道を毎回通い、初心者と一緒に基本を稽古して、ご自分の剣道を見直されました。
また、 60歳を超えて七段を取得された女性もおられます。決して器用なタイプではなかったのですが、七段受審前のある時に打突後の「送り足」を注意したことをきっかけに、良い面を打てるようになりました。それが自信に繋がったのか、剣道がとても良くなりました。七段受審の頃には、構えが充実し、稽古していて合格を確信しました。
お二人とも過去に輝かしい実績があった訳ではありませんが、熱心に剣道に取り組まれた結果、何か掴まれたのだと思っています。
一人一人に合った指導ができれば一番良いですが…難しいけれども、その人に合ったポイントを指摘できれば、と考えています。それがきっかけとなってその方の剣道が改善されていく兆しを感じた時は非常に嬉しく思います。教える立場になってから、逆に勉強させて頂いていると感じるようになりました。
篠原
具体的な指導内容について教えてください。
水田
剣道具を装着し、「木刀による剣道基本技稽古法」を活用した稽古をしています。特に重要と思われる点は、説明と示範をしながら繰り返し稽古します。
例えば、竹刀の持ち方では「左手だけでなく右手も、小指・薬指でしっかり握り、中指は軽く締め、人差し指と親指は軽く添えるようにする」こと等、何度も確認します。
また、体重は左右均等にかけて立ち、前に出る時は左足で体を送り、下がる時は右足で体を押し戻す稽古をします。この送り足ができると下肢で打ちに行く打突ができるようになります。
中段の構えのまま一足一刀の間合に入り、両腕を十分に伸ばして左足を引きつけて正面を打つことなど、本当に基本的なことを皆で確認しながら稽古しています。
「不離五向」といって、「足のつま先」「臍」「構え」「気持ち」「目」が真っ直ぐ相手に向かっていることも大事です。
◎女性・高齢者共にテーマを持って稽古に取り組み審査へ臨む
篠原
審査では初太刀が大事、面の打突が大事と良く聞きますが…。
水田
攻めと気持ちが整わない状態で打ちにいってもダメです。初太刀も大事ですが、やはり「先の気」→「打ち切る」→「残心の心構え」が揃っていることが肝要で、「攻めのない打ち」や「守りながらの打ち」は評価されません。
私も面に拘っていた時期がありましたが、当時の先生から「貴方の小手は良い」と言われて面に拘らなくなり、気持ちが楽になって肩の力が抜けた経験があります。気持ちの持ち方次第ではないでしょうか。
また、構えを崩さず足を中心にして攻め、相手に気後れさせることができれば、打つべき機会が見えてくると思います。
篠原
女性の方が注意すべき点があれば教えてください。
水田
体勢—特に足が整わないのに出ていく人を見かけます。小さく速く捌ける足を作って頂きたいと思います。
また「不離五向」を忘れず正中線を攻め、真っ直ぐな打ちを追い求めれば、冴えた打ちが自然に身に付くと思います。
竹刀の振り方についても、肘や肩、そして二の腕を柔らかく使うことによって、小さい振りでも鋭い打突ができるようになります。タイヤ等を使って打ち込む練習をするのも良いでしょう。ご自身の剣道を見つめ、それぞれにテーマを持って稽古に取り組んで頂きたいと思います。
篠原
高齢者に向けて伝えたいことがあれば宜しくお願いします。
水田
若い人のように激しい稽古は難しいので、面の打ち込み等の際は、インターバルを取りながらで構わないですから、テーマを持って、それを確認しながら稽古して頂きたいです。やはり、「攻め入る」時の足捌きが大切ですので、縁を切らない打ち込みや切り返しの稽古は継続すべきだと考えます。
年齢・性別・段位によらず、基本が大切ですので『剣道指導要領』や『剣道社会体育教本』『木刀による剣道基本技稽古法』等を参考に、ご自身の剣道を見直してみて頂ければと思います。
*段位審査に向けては、2021年5月号から2022年11月号まで全19回に渡り月刊「剣窓」に連載したものを再掲載しています。役職は、掲載当時の情報をそのまま記載しております。