図 書
『現代剣道百家箴』
恩師の言葉
足立 純三(剣道範士八段)
剣を学んで70年余、齢まさに80を数えて今尚剣を手にして道に奉仕できる喜びを感受しつつ、剣道を老後の伴侶として余生を楽しんで居ります。
小生も若い修業時代には、血気にはやって随分と力まかせの無理な稽古をしたものでしたが、何時も先生からご注意があって、「余り力に頼り過ぎると、若いうちはよいが体力には自ら限度があって年と共に低下し、それに伴って実力も又落ちるものである。技には限界がないので、修練を積むに従って練磨され、益々技は冴えて技は年をとることはないものである。」と懇々と将来について有難いお諭しのお言葉をいただいてからは、堅く教えを守って専心技の修練に心血をそそいで努力してまいりました。お陰で老齢の今日でも未だに稽古をつづけて居られるのも、これもみな恩師の有難いご教訓の賜と感謝の念を新たにして居る次第であります。
今、永い修業のあとを振り返って見ますと、剣道の歩みにも色々と紆余曲折はありましたが、なんといっても、我々剣道にたずさわる者にとって一番衝撃をうけたのは、進駐軍の占領政策によって我々が多年剣道を修業した思出の武徳会が解散の憂目に遇い、剣道も全面的に禁止されたことで、光輝ある歴史と伝統を誇る日本古来の剣道も一時は絶滅の危機に瀕し、撓競技によって辛うじて一縷の命脈を保ったものの、誠に憂慮に堪えないものがありました。幸いにも講和条約の締結によって予期以上に早く禁止が解かれ、平和的剣道、人間形成の道として新らしい構想の下に全日本剣道連盟が発足して以来、急速な進歩を遂げ今日では戦前に倍する盛況を見るに至り、国内はもとより海外にまで発展して居ります。記念すべき連盟発足20年を迎えて愈々世界的剣道たる日の近きを確信して、益々連盟の隆昌発展を祈念して止みません。
*『現代剣道百家箴』は、全日本剣道連盟創立20周年を記念して1972(昭和47)年に発行された図書です。
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