図 書
現代剣道百家箴
現代の剣道だけでなく
小野 十生(剣道範士九段)
予が古流の型をやった動機は、宮本武蔵、山岡鉄舟先生の本を読み、竹刀剣道だけでは物足りない。今の竹刀剣道だけをやっていたのでは、本当の剣道の精神を会得することができないのではなかろうかという疑念を生じ、身心(不動心)を鍛練するには、古流の型を基礎として、現在の剣道を修業する必要があると考えたからである。
古流の型の中で、小野派一刀流は構・足運びが現在の剣道に似ているし、業も多く、切り落しといって相手に任せきった心境(不動心)でなければ、会得できない精神や業を錬磨するのに都合がよい。その上、五歩さがり、三歩でてから打つというのではなく、相手の起りで業を出すという約束があって、約束のない型の練習は現代の竹刀剣道の練習に近く、現代の剣道にも役立つすぐれた型であるので最も力を入れて修業したのである。剣道をやって心身を鍛錬するというが、竹刀剣道だけでは、どうしても競技的になる。古流の型は昔から伝わり、真剣勝負をし、命懸けの試合をして生れた業であるから、小手先の業でなく、真の業であり、精神的な要素も重要な意味を持って来るのである。以上のような理由で、剣道の真の精神は、古流の型をやらないと会得することはできないと考えられるので、古流の型を修業する必要がある。
予のささやかな体験ではあるが、古流の型を修業してからは、相手の動きがよく見えるようになり、精神的に稽古が楽になった。今後は、竹刀剣道の打ち合いだけでなく、古流の型を基礎として修業する者が増えることを願うと同時に、将来の剣道の発展の鍵もここにあると信ずる。
*現代剣道百家箴は、1972(昭和47)年、全剣連20周年記念事業の一つとして企画された刊行物です。詳しくは「現代剣道百家箴の再掲載にあたり」をご覧ください。