図 書
現代剣道百家箴
基本に忠実なれ
川島 満雄(剣道範士八段)
1.或る体験(基本に忠実なれ)
剣道は心と体を鍛える事によって、卓越した人間性、社会性を養成するものであることには昔も今も変りないと思う。ところが昨今の剣道は、ややもすればその技巧にのみ走り、勝負にのみ拘泥する傾向には寒心に堪えないもの(恐ろしい思い)がある。
心身鍛錬の目的にそうためには、あくまで基本の確立が肝要であり、その上にこそ大成を期待し得るものであろう。曽て私が道場で接した多くの若者たちの中に2年ほど経験を経て指導を受けたいと見えた青年の稽古を見て、大変熱心ではあったが体が固く、極端に偏(変)剣で、一見して基本動作の修得がなされていない事が見受けられ、本人ともよく話合い、一念初心に帰って白紙から再出発することに決めました。
それから3ヶ月間、連日素振り、打込み、切り返しの基本を反復専念、更に道具を装着して3ヶ月相も変らず基本動作の繰返しに明け暮れました。そして6ヶ月後から漸く掛り稽古を始め、当分は同僚との試合を避け、而も相当きびしく体当り組打ち等も含め、体の柔軟性を十分に体得せしめました(現在は不可能)。約1年後初めて試合をさしてみたところ、初めて試合する者とは思われない素晴しい味があり、彼が2年後初段に、更に1年後二段にと刮目すべき進境を示した事を今に忘れられない。後日彼が海軍軍人となり、剣道によって得た精神と健康によって、その責務を果得た事を、戦後沁々と語られた時は、既に老境にあった私にとって剣道冥利につきる思いが致しました。
何事によらず基本の確立が目的達成の最短コースである事は疑いない。
2.信 条
日常に処するに、栄達金権に惑わされず、無我無心、平常心を以て事に当る。
3.深く心を打つことは
心正しからざれば、剣亦正しからず。
*現代剣道百家箴は、1972(昭和47)年、全剣連20周年記念事業の一つとして企画された刊行物です。詳しくは「現代剣道百家箴の再掲載にあたり」をご覧ください。