図 書
現代剣道百家箴
私の座右銘
長谷川 寿(剣道範士八段)
1、体験について。
私の剣道歴は満52年3ヵ月になりますが、その間を回顧して見ますと、大正15年4月大日本武徳会立武道専門学校へ入学して正式に剣道に関する基礎教育を受けてからの私の人生は、平らたく表現すれば「豊な心」の光明を求めての苦しい修行の連続でありました。しかし、ありがたいことに、天職として修業することのできる身の悦びと感謝の日々でもありました。
なお、目下「日暮れて道遠し」の齢ではありますが、老後の与えられた使命として、ご奉公の一端にもならばと、左(以下)の一刀流極意並びに恩師の教訓等を模索している昨今でございます。
一刀流正傅総目録の一部(原文)
天 道 不 レ 争 而 勝。
避 二 来 鋭 一 撃 二 其 惰 気 一 。
誅 レ 龍 剣 、不 レ 揮 レ 蛇。
花 下 睡 猫 、意 在 二 舞 蝶 一 。
故内藤高治先生御教訓(原文)
我ニ眼ナシ電光石火ヲ以テ眼トナス
我ニ耳ナシ感応ヲ以テ耳トナス
我ニ法ナシ護身ヲ以テ法トナス
我ニ術ナシ殺活自在ヲ以テ術トナス
我ニ工夫ナシ機先ヲ以テ工夫トナス
我ニ奇特ナシ正法ヲ以テ奇特トナス
我ニ主義ナシ臨機応変ヲ以テ主義トナス
我ニ懸引ナシ虚実ヲ以テ懸引トナス
我ニ才能ナシ當即妙ヲ以テ才能トナス
我ニ味方ナシ一心ヲ以テ味方トナス
我ニ敵ナシ油断ヲ以テ敵トナス
我ニ甲冑ナシ仁義ヲ以テ甲冑トナス
我ニ城郭ナシ不動心ヲ以テ城郭トナス
我ニ刀剣ナシ無心ヲ以テ刀剣トナス
(注)原文には、句読点は付けてありません。
故中山博道先生御教示(原文)
剣ハ手ニ随ヒ手ハ心ニ随ヒ
心ハ法ニ随ヒ法ハ神ニ随フ
練磨之ヲ久シクスレバ手ヲ忘レ
手ハ心忘レ心ハ法ヲ忘レ
法ハ神ヲ忘
(注)原文は、句読点及び末尾の忘には送り假名は付けてありません。
2、信条について。
菅原道真公の歌
「心だに誠の道にかなひなば祈らずとても神や守らん」
右(以上)、和歌の「至誠一貫」を剣道を通じての処世の教訓としております。
3、深く心を打つことばについて。
聖徳太子の十七条憲法の
「一に曰く、和を以って貴しと為し、忤ふること無きを宗となせ」
以上、ご諮問に預かりました三点について、ご回答申し上げる次第でございます。
*現代剣道百家箴は、1972(昭和47)年、全剣連20周年記念事業の一つとして企画された刊行物です。詳しくは「現代剣道百家箴の再掲載にあたり」をご覧ください。