図 書
剣道みちしるべ
第21回 教育への取り組み
総務・広報編集小委員会(当時) 真砂 威
本年(2009年)3月4日、東京都千代田区の憲政記念会館で開催された「武道振興大会」では、下記の決議文が全会一致で採択され、同大会に出席されていた塩谷 立文部科学大臣にその場で手渡されました。
決 議
我が国は、明治維新以来、驚異的な勢いで近代史に確かな足跡を残し世界有数の経済大国となった。その一方で、近年、青少年層における倫理道徳の頽廃が著しく、自他の尊厳や義務感の欠如等、規範意識の低下が社会問題の多発につながり、国家の将来を暗いものにしつつある。
この危機的状況にあって、国は国家再生へ向け、「公共の精神、生命、伝統や文化の尊重」を盛り込んだ教育基本法の改正を実現した。誠に、ご同慶の至りである。
翻って、武道は、国民精神の根源、即ち武士道精神の真髄を基調とする、体・徳・知を一体としてはぐくむ我が国固有の伝統文化で、文武両道、質実剛健を旗印とする国家、社会の平和と繁栄に寄与する人間形成の道である。
よってここに、青少年の健全育成を主眼とする、武道の特性を生かした全人教育の徹底と、武道のさらなる振興発展が図られるよう左記(下記)の事項の早期実現を強く希望する。
記(要約)
一 中学校武道必修化へ向け、充実した授業ができるよう、施設、用具、指導者の条件整備に必要な予算措置と、各都道府県への指示を徹底。
二 指導者については、武道学科卒業の新卒教員を積極的に採用するよう都道府県教育委員会に強く働きかけを行うとともに、優れた社会人の補助教員(指導助手)を各中学校に配置し、指導に万全を期する。
三 将来の小学校における武道授業の実施へ向け、発達段階に応じた指導法の研究を行い、準備を推進する。
四 武道の国際的普及振興を確かなものとするため、日本武道代表団や武道指導者の海外派遣事業を一層推進する。
五 武道の源流である古武道の保存・継承を図るため、文化財指定について所要の措置と必要な支援、助成を行う。
六 武道場の整備については、国の補助制度を拡充するとともに、日本武道館の諸施設を更に充実し、将来予定される武道博物館・同図書館の創設も視野に入れた建替計画を推進し、必要な支援、助成を図る。
以上ですが、全剣連はこれまで数多くの教育に関する取り組みを行っております。
まずは、昭和50年に行われた『剣道の理念』と『剣道修錬の心構え』の制定です。“剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である”は、剣道は教育であるということを明言したもので、広く剣道界で親しまれております。それから30年。これまでの「理念」「修錬の心構え」に次ぐものとして新たに指導面での指針が掲げられました。それが平成19年3月14日に制定された『剣道指導の心構え』です。これをもって教育指標としての三本の柱が完成したといえましょう。
また一方では、教科への編入が予測されていなかった、平成7年から、文部科学省令事業による日本体育協会「スポーツ指導者(剣道専門科目)」の講習を兼ねるものとして『社会体育指導員養成講習』に取り組んでおります。これは地域において剣道の指導にあたっている指導者の資質の向上を図り、剣道をより充実し正しく普及発展させ、あわせて必要な知識・能力を得ようとする人たちの養成を目的としたものです。現在資格認定者は5,339名を数えるまでになりました。これは教育現場で指導員が不足することを先取りした全剣連の取り組みともいえましょう。
さらにもう一つは、平成15年に『木刀による剣道基本技稽古法』を制定したことです。制定の趣旨は、「剣道の基本技術を習得させるため、竹刀は日本刀であるとの観念を基とし、刀法の原理・理合、作法の規範を理解させるとともに、適正な対人的技能を中心に技を精選して指導する」というものです。これは学校などで行われる集団指導を効果的に進めるためのものであり、かつ指導者が生徒の錬度に合わせて行えるよう組み立てられたものです。
このように剣道界では万全ともいえる態勢で教育への取り組みに力を注いでおりますが、今の時代においても剣道に対し無条件に拒否反応を示す人が少なからずいることも事実です。
(つづく)
武道議員連盟・日本武道協議会・日本武道館の三者による共催
現在の資格認定者は10,839名(2023年2月10日調査)
*この『剣道みちしるべ』は、2007年8月〜2010年1月まで30回に渡り月刊「剣窓」に連載したものを再掲載しています。