医・科学
剣道を向上させる栄養計画
―スポーツ栄養の基礎知識と応用―
Question
剣道が強くなりたいのですが、食事で気をつけることは何かないでしょうか?(22歳男性)
Answer
剣道が強くなるためには、元気に稽古を行えることが必要不可欠です。そのために、日頃栄養バランスの良い食事を行いましょう。
日頃の食事は「栄養フルコース型」の食事
どの世代の方にもお勧めの食べ方、「栄養フルコース型」の食事をご紹介します。これは①主食(ごはん、パン、めん類)、②おかず(肉、魚、卵、納豆や大豆などの大豆製品)、③野菜(なるべく色の濃い野菜を多めに)、④果物(なるべく甘酸っぱいかんきつ類)、⑤牛乳(牛乳やヨーグルトなどの乳製品)をそろえる食べ方です。この食べ方を行うと、5大栄養素をバランス良く摂ることができます。稽古をしない日や軽く体を動かした日は、①〜③を朝、昼、夕食の毎食、④と⑤を1日1回摂りましょう。稽古をがんばった日やたくさん体を動かした日は、①〜③を毎食と、④と⑤を1日2、3回摂りましょう。
朝稽古や夕方稽古には間食をうまく活用しましょう
「平日の朝や夕方に稽古があると、どのタイミングで食事をしたらいいのか迷う」という声をよく聞きます。そのような場合は、間食を上手に利用しましょう。間食はお菓子を食べる時間と思われがちですが、本来、間食というのは食事で摂りきれなかった栄養を補うものです。お菓子を食べる時間は、心の安らぎやコミュニケーションのひとつとして時々楽しみましょう。普段の間食では、「栄養フルコース型」の食事にあるようなものをお勧めします。具体的には、おにぎり、サンドイッチ、ヨーグルト、果物、果汁100%ジュース、野菜果汁ジュースなどです。
朝早くに稽古がある場合は、家を出る前にオレンジ100%ジュース、スポーツドリンク、果物など水分と糖質が補えるものを口にすると、水分とエネルギーが補給されて朝稽古がスムーズに行えます。みそ汁やスープなどの汁物もいいですね。朝稽古が終わってから「栄養フルコース型」の朝食を食べて、午前中のパワーを入れましょう。学校や職場で食べる場合は、おにぎりやサンドイッチなどが簡便です。
夕方に稽古がある場合は、間食を使って夕食を分けるといいでしょう。夕方の稽古の前に軽い間食を入れ(例:おにぎり1個)、稽古直後に疲労回復を促すために栄養を補給し(例:オレンジ100%果汁ジュース 小1パック)、そして帰宅したら軽めの夕食を(例:ごはんを半量、味噌汁、おかずを半量、野菜の小鉢を1杯など)。夕食で何をどのくらい食べるかは、「睡眠中に空腹で目が覚めてしまう」または「翌朝に胃がもたれて朝食が食べられない」ということがないように調節してください。そして、翌朝しっかりと朝食を食べる、というのが健康的な食べ方でしょう。
効率よく水分補給
軽めの稽古や、涼しい季節での稽古ならば発汗が少なく、それほど稽古中の水分補給は気にしなくてもいいかもしれません。しかし運動強度が高かったり、温度や湿度が高かったりすると、発汗量は多くなり、水分補給をしないと集中力の切れやバテにつながります。さらに、運動中の過度の体温上昇は熱中症を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。水分補給はとても大切になってきます。特に小さなお子さんを指導される方は、子どもは大人よりも脱水をしやすいので、稽古中の水分補給によく気を配ってください。
稽古中の水分補給のポイントは、①1回に飲む量は約100〜150ml(大きな口をあけて3口ほど)、②こまめに飲む(15〜30分ごと)、③暑い季節は適度に冷やす、③発汗量がそれほどでもない時は、水またはお茶でOK(お茶はカフェインの少ない番茶や麦茶がお勧め、④発汗量が多いときは、約2.5%の糖度で電解質を含んだスポーツドリンクを摂るなどです。
また、「喉が渇いた」と感じる時は、もう既に体は脱水をしている状態。喉が渇く前に効率よく水分補給をして、体内の水分を保っておきましょう。稽古中に水分を摂るのが難しい場合は、稽古の前後数時間にこまめに水分補給をすることも有効です。発汗量は個人差があるので、水分補給の量や頻度は参照にとどめて、個別に調整をしてください。
大切な試合の時の栄養戦略
試合当日は、消化時間を考慮して食べることがポイントになります。本番で最も動きやすいのは、食べ物が胃を通過し終えた状態と言われています。これを考慮すると、普通の食事であれば、試合開始の4時間前までには済ませておきたいところです。試合当日に避けたほうが無難な食材があります。生もの(生卵、刺身など)、食物繊維の多いもの(ごぼう、さつまいもなど)、そして普段食べ慣れないものです。普段は大丈夫であっても、大切な試合の時に体は緊張しがちなので、下痢やガスの発生になる可能性があります。試合当日は普段から食べ慣れている食事が良いでしょう。食べ物の種類は糖質が多く、脂質が少ない物が、消化が早くて試合に向いています。試合の開始2〜3時間前に何かを口にするのならば、おにぎり、ロールパン、おかゆ、うどん(揚げ物は禁止です)、和風スパゲッティなど、1時間ほど前ならばゼリードリンクや100%果汁ジュースが良いでしょう。ただし消化時間は人それぞれ異なりますし、食べ物の好みも違います。いきなり本番で挑戦するのではなく、事前に本番を想定して自分に合った試合の日の食事を見つけておきましょう。
山田 聡子(日本体育協会公認 スポーツ栄養士)