医・科学
女性の貧血
―疲れやすく、いつものように稽古ができない―
Question
太り気味だったので、半年前からダイエットを行っていました。目標体重に到達したのですが、最近、とても疲れやすく稽古について行けなくなり、日常生活でも立ちくらみを覚えることがあります。
(19歳女性)
Answer
「ダイエット」には、栄養状態を維持しながら体重管理をする方法が推奨されます。しかし、食事を抜いたり必要以上にカロリーを制限したりする方法では、健康状態に影響を及ぼすことがあります。なかでも、鉄分摂取の不足や月経(生理)の過多による「貧血」はよくみられますので、医療者による評価と治療が必要となります。
貧血とはどのような病気ですか?
スポーツで身体を動かす、つまり筋肉を効果的に動かすためには、栄養である酸素が不可欠です。酸素は、呼吸によって肺に送り込まれた後、血液中の赤血球によって身体中の筋肉へ運ばれます。酸素は、赤血球内のヘモグロビンと呼ばれる鉄を含んだ蛋白と結合することで、血液に乗って運搬され、身体中の各組織に供給されます。「貧血」は、その酸素の運搬役である赤血球が少ない状態のことを言います。目の前が暗くなったり、急に立ってクラッとしたりすることを俗に「ひんけつがある」言われていますが、実は本来の定義である「貧血」ではないことが多いのです。
酸素が結合したヘモグロビンを含む赤血球が血液に乗って流れている図
どうして貧血が起こるのですか?
健康人で特に女性に一番多い原因は、体内に鉄分が足りていない「鉄欠乏性貧血」です。体内に鉄分が足りない主な理由として、(1)食事から十分な鉄分を摂取できていないか、(2)出血によって身体から鉄分が失われているか、の2つが考えられます。その他に、適切な量の鉄分を摂取しても、体内でうまく吸収されない、という原因もあります。閉経前の女性では、一般的に24日〜35日の周期で月経が起こりますが、その都度、身体から血液と一緒に鉄分が失われていることになります。また、自分では気づかなくても、毎回の月経量が多い(過多月経)場合もありますので、鉄分を日ごろから適切に摂取していないと、容易に鉄欠乏性貧血になります。
貧血はどのような現れかたをするのですか?
身体中の筋肉に十分な酸素が行き届かないために、疲れやすさ、倦怠感、動作時の息切れ、フラフラ感、動悸として自覚されます。その結果、通常の稽古についていくことが困難になることもあります。ゆっくりと貧血が進行してきている場合、身体は貧血状態に適応するため、自覚症状が明確でないこともあります。そのような場合、周囲の人が顔色の蒼白を指摘することで、貧血に気づくこともあります。
治療の指針
前項にあげた症状がある場合、また明確な症状が無くても「どこか調子が悪い」や「元気がない」場合には、医師の診察が必要となります。貧血と診断するためには、血液検査でヘモグロビン量が減少していることを確認しますが、貧血の原因も同時に検索することが可能です。鉄欠乏性貧血に対しては、鉄剤(処方薬は市販薬よりも多くの鉄分を含んでいます)を服用することが基本的治療となります。体内には貯蔵鉄と呼ばれる鉄の貯蔵庫がありますが、鉄欠乏性貧血ではこの貯蔵庫が空になっている場合が多いため、貯蔵鉄を十分補充する目的で鉄剤の服用をしばらくの間継続する必要があります。また、鉄分を失っている(出血している)場合は、原因を検索し、その治療も同時に行う必要があります。
貧血の対処と剣道の稽古への助言
まず、自分自身で調子がおかしいことに気づくことが大切です。そして、体調が悪い場合、道場の指導者や保護者に状態を連絡し、稽古を一旦中断することも大切です。逆に、指導者あるいは保護者は、稽古についていけない理由がメンタル面ではなく、実際に医学的理由が隠れている場合があることを認識する必要があります。前項の症状が認められた場合、医療機関での評価を一度受けましょう。また、学校、会社、自治体などでの健康診断で、貧血の有無や運動時の症状をチェックする機会を持ちましょう。
鉄分の多い食事を心がけましょう。鉄分には、大きく分けて2種類(ヘム鉄と非ヘム鉄)あり、ヘム鉄は非ヘム鉄より吸収率が良いといわれます。ヘム鉄には豚レバー、鶏レバー、いわしなどが含まれ、非ヘム鉄にはひじき、ほうれん草、小松菜などが含まれます。制酸薬や抗ヒスタミン薬の使用、コーヒーや紅茶によって鉄分の吸収が落ちる一方、ビタミンCと一緒に摂取することで吸収が改善するとも言われますので、鉄分補充の際には意識してみましょう。
鳴本 敬一郎(菊川市家庭医療センター、菊川市立総合病院)