医・科学
テーピングの実際
―正しいまき方のポイント―
Question
剣道はもちろんのこと、いろいろなスポーツで活用されているテーピングについて、その目的や巻き方のコツなどを教えてください。(25歳男性)
Answer
テーピングの目的は、「ケガの予防」、「応急処置」、「軽度外傷後のケア」、「リハビリテーション時の固定・補助」、そして「再発防止」と幅広いものです。
芸術的なまでの完璧なテーピング技術によって、オリンピックなどで好成績を残した選手も少なくありません。しかし、そのテーピングも過信したり実施方法を誤ると、逆にケガを促進する場合もあり、十分な注意が必要です。スポーツテーピングに関する書物やビデオ教材、ホームページなども多くありますので、参考にして正しい知識と実施方法を身につけましょう。
テーピングの効果
- 関節・靭帯・筋・腱の補強:目的とする部位にテーピングを施し、補強することにより、その部位にかかる負担を減少することができます。
- 関節可動域の制限と不安定部位の支持:痛みのでない範囲での関節可動域を制限して、通常の関節可動範囲を超えてしまわないようにテーピングを施し、不安定となりやすい関節部位を支持することができます。
- 患部の圧迫と固定:外傷を受けた部位を圧迫・固定することにより、皮下組織に起こる血液やリンパ液及び細胞組織液の流出を抑えることができ、腫れや痛みを軽減できます。
- 精神的な効果:テーピングを施すことで、その刺激による鎮痛効果が生じ、実際に痛みが軽減することに加えて、外傷発生が予防されていることによって、競技実施時の安心感が高まり、パフォーマンスの向上が期待できるとされています。
テーピング実施上の注意事項
- 患部を清潔に:実施部位を清潔にする。汗や水分をしっかりふき取っておくことが大切です。
- 体毛除去:実施部位に体毛が多い時には、カミソリで剃ります。痛みや炎症の予防となります。
- 傷の保護:すり傷や切り傷がある場合は、傷口にカット絆などで保護しておきます。
- 粘着スプレーの使用:固定力を増し、ずれたり剥がれたりしないように、アンダーラップやオーバーラップ、さらに粘着スプレーを使用するとよいでしょう。
- 摩擦部の保護:摩擦部や皮膚を傷めないように、たるみ・しわ・隙間のできないよう注意します。
- 皮膚の保護:毎日あるいは長期間テーピングを巻く必要がある、皮膚が過敏な人・アレルギーがある場合は、アンダーラップを使用して保護しましょう。
- テープの選択:テープの種類と性質をよく知り、競技特性や実施部位によって、テープの幅、伸縮・非伸縮の別などをうまく使い分けることが大切です。
- しわ・たるみ・隙間なく:テープの張力が均等になるよう注意し、必ずしわ・たるみ・隙間を作らないように確認しながら、テープを巻く方向や強さを調節します。
- 血液循環の確認:実施後は心臓から実施部位より遠い部位を選び、血液循環の確認を必ず行います。調べ方は、脈を診たり、指の爪をつまんですぐに離し、爪の色がすぐに元に戻るかどうかを確かめます。
- テーピングの除去:長期の安静固定の場合を除いて、運動終了後30分以内にテープを除去します。汗をかいたまま放置すると、蒸れて不潔な状態となり、さらには皮膚病にかかることもあるので注意しましょう。
テーピングテープの種類
- ホワイトテープ:伸び縮みしない布製のテープ。手で切って使用します。
- ハード・エラスティックテープ:伸縮性のある少し厚めのテープ(肌色が一般的)ハサミで切って使用します。
- ソフト・エラスティックテープ:伸縮性のある少し薄めのテープ。柔らかく白色で、強度がないので手で切って使用します。
- マッスルテープ(キネシオタイプ):肌色で伸縮性があり、はさみで切って使用します。直接皮膚に、患部の筋肉に沿って貼り、2・3日貼り続けることで効果があるとも言われています。(テープの下に台紙がついているタイプ)
テーピングの実際(剣道実施上、傷害の多く発生する足首と膝のテーピング)
- 足首捻挫予防のためのテーピング(図1)
これは、足先と足の裏が内側に向くように挫け、足の外側の靭帯が伸びてしまう捻挫(内反捻挫)を予防するテーピングです。外反捻挫の場合は、スターアップの巻き方が逆となり、「外から内」に巻くことになります。 - 足首捻挫再発予防のためのテーピング(図2)
捻挫が治りかけた場合の再発防止のためのテーピングです。バスケットウェーブ・内側ヒールロック・外側ヒールロックで固定力を高めます。 - 足首捻挫受傷時の応急処置としてのテーピング(図3)
練習や試合中に捻挫してしまった時の応急処置です。アンカーをはじめ、すべてのテーピングを脛や足の甲に行わないように注意します。これは、時間が経過して患部が腫れてきた時の逃げ場をつくるためです。そのためバスケットウェーブで補強します。脛や足の甲があいているため「オープンバスケット」と呼ばれています。 - 膝内側の軽い捻挫の応急処置としてのテーピング(図4)
これは、膝内側の側副靭帯の軽い捻挫の応急処置です。膝にテーピングを施す場合には、内側と外側の側副靭帯の位置がずれていることを考慮して行う必要があります。外側の側副靭帯は腓骨骨頭の上部にあり、内側の側副靭帯は膝真横のくぼみの部分で、内側の方が高い位置にあります。
それぞれ図中の番号と巻き方の名称を見ながら、その手順に従って、しっかり貼ってください。実際にテープを使って実践し、多くの経験を積むことが大切です。
巻き方の名称とその方法
- アンカー(錨):はじめのアンカーは、テーピングを実施する範囲を規定する役割を持っています。最後のアンカーは、サポートとなるテープをしっかりと押さえるものです。
- スターアップ:伸縮性のある少し厚めのテープ(肌色が一般的)ハサミで切って使用します。
- ホースシュー:これも足首のみに使用され、足関節の横への動きを固定する目的で行います。足底と平行となるよう横方向にUの字に巻きます。(馬蹄形=ホースシュー)
- サーキュラー:リング状の巻き方をいいます。部位を一周一周切りながら、少しずらして貼っていきます。各部を圧迫する時や全体を最後に覆う時に使用します。(サーキュラーの連続版。続けて螺旋状に巻く方法をスパイラルといいます。)
- フィギュアエイト:8の字の形となるように巻く方法です。主に関節全体を固定する場合や伸展するのを防ぐ時に使用します。通常2回巻くようにします。
- バスケットウェーブ:スターアップとホースシューを交互に行い編み込んで行くものです。
- ヒールロック:踵を固定するために行うものです。内側・外側両方から脛に向かって貼っていきます。(左右のヒールロックを続けて巻く方法をアドバンスといいます)
- Xサポート:補強したい靭帯の上にXのテープの重なりの部分がくるように貼ります。Xサポートの数を増やすことで、固定力・サポート力を高めることができます。
- 縦方向のサポート:Xサポートと同様に靭帯の補強に使用されます。通常Xサポートと同時に使用され、補強したい靭帯の真上を通るように貼ります。
- コンプレッション:膝の場合に使用し、膝頭をはずして、上下に迂回するように貼っていくものです。幅の広い伸縮テープを2本に切り分けて(スプリットテープ)、膝頭の上下から圧迫し固定します。
吉田 泰将(慶應義塾大学体育研究所准教授)