おめでとうございます。2,000年問題で私の地元の市の武道館では、何年も続けてきた越年稽古を中止したとのことでした。そこまで大事をとるのかとの感がありますが、この程度で、混乱なく皆さんが良き新年を迎えられることを、執筆の現時点で念願します。巻頭言では気の長いことを述べましたが、月刊の「まど」ではこの際、一年の計を立てて行く新年とし、次号で取り上げることにします。さて「まど」も駄文を綴って、150回を迎えました。皆さんのご鞭撻にお礼を申し上げ、今後もそれなりの役割を果たして行きたく、新年のご挨拶とします。
(1)新たな剣道称号・段位審査規則が決定
前年度に始めた称号・段位見直しの審議が進み、これに対応する規則が理事会・評議員会で決定を見ました。大幅な改定としては、平成元年以来のことですが、今回の審議においては、制度と運用全般の見直しからスタートしました。そして称号・段位の並立の形は残すものの、両者の性格を明らかにし、段位は技術的力量、称号はこれに加える識見、指導力など剣道人としての完成度に応じて授与されるものと定義し、称号を重視することとし、それにふさわしい審査を行うこと、また範士を最高位と位置付けたこと、また乱発ぎみの原因となっていた規程を整理し、八段取得者に原則的に絞るなどとして、権威づける方針を取ったこととしました。
審議に当たり、基本方針の要領というべき「見直しについて」を先行させ、方針決定後に規程条文を審議するという、手順を取りました。そして「見直し」がまず3月に固まり、(剣窓平成10年12月号参照)新規則は6月に、またこれを補足する細則・実施要領が11月の理事会・評議員会で決定しました。
居合道、杖道についても改定が進められ、同じく12年度から実施に入ることが内定しています。この改定は剣道界の将来に影響をもたらすものであり、平成11年事業における最も重要な成果といってよいものと考えています。
(2)全日本剣道選手権大会・宮崎正裕選手前人未踏の6回目の優勝
記憶に新しい出来事ですが、ただの6回目でなく、これまでに誰もできなかった連覇が2度目というおまけ付の優勝です。無条件で敬意を表したいと思います。
(3)社会体育指導者資格認定講習事業進展
平成7年に開始したこの事業、順調に展開され、前年末までに25回の講習を重ね、約2千3百人が初級の資格を取得されました。4年経過したことにより初期の資格取得者が更新の段階になり、9月に東京で第1回の初級更新講習会を実施、70名が2期目の資格を取られました。さらに来年度は中級の認定講習も始まり、多くの方の尽力で進められたこの事業も第二段階に進みます
(4)軌道に乗った全剣連ホームページ
一昨年末に開設した全剣連ホームページが軌道に乗ってきました。11月文化の日の全日本選手権大会はお知らせしたように、試合結果を速報しましたが、当日と翌日に海外を含め、約2万件のアクセスがありました。またその影響もあったのか、11月中のアクセスの総数は約12万5千件に上り、コンピュータを媒体としての一般の関心の高さを実証し、ホームページの一層の充実の必要性を痛感させられました。なお「剣窓」の記事のうち、この「まど」の記事だけは、毎月ホームページに載せて貰っています。
(5)京都・武徳殿建立100年記念行事を実施
明治32年に完成、戦中、戦後の一時期を除いて、武道のメッカともいうべき存在であった武徳殿は、平成8年に国の重要文化財の指定も受けていましたが、昨年建立100年を迎えました。この間の武道の盛衰を目にしてきた証人ともいえる、武徳殿の100年を祝う行事を、剣道界の手によって実行しました。5月の演武大会を建立100年記念大会とし、5月4日に式典を実施、大会参加者に記念品の配布を行いました。さらに100年を記念するため、京都府剣連の協力を得て、立派な記念碑を建設することができ、碑文に「武徳薫千載」と刻み、裏面に100年の武道の浮沈と推移を記しました。これからの100年、剣道は健全な歩みを続けることを祈念します。
(6)久方振りにソウルでアジア地区審判講習会
いろいろの事情で実行が遅れていた、標記講習会を7年ぶりに実施しました。日本からも審判要員が加わり、韓国ソウルで5月15、16日の両日、香港、台湾からも加わって、合計30人が参加して開催し、効果を挙げました。
国際関係では、本年3月米国サンタクララでの第11回世界剣道選手権大会を控えて、8月に国際剣連理事会を同地で開催、大会要項などを決定しました。女子大会を準公式試合として取り上げること、開催剣連の負担軽減策などを決定しました。
一方、北本市で実施の夏の恒例の外国人指導者講習会には過去最高の70人が参加、充実した10日間の日程を終えました。
(7)都道府県対抗剣道大会の賞品に優勝兜
この大会、年度初めの歴史ある大会で、選手構成も昨年より女子2人を加えて7人とし、最強の都道府県を選ぶ大会となりました。全剣連としてもこのような大会にふさわしい優勝賞品をと、検討してきました。たまたま春日神社所蔵の南北朝時代の兜を精巧に模写、復元された実寸大の手付かずの名品があることが分かり、作者の東京・三浦公法氏より入手、賞品副賞としました。この兜、優勝の大阪府チームに授与され、今後持ち回りされます。またこの兜を小型にしたミニ兜を作成、秋の全日本剣道選手権大会の優勝者の副賞としました。
(8)丸目蔵人顕彰剣道大会10回目を迎える
毎年秋に熊本県錦町で開催されている剣道七段選抜大会は今年で第10回大会を行いました。この大会は自治体である錦町が、同地出身の剣豪丸目蔵人を偲び、町の青少年の育成に資する事業として取り上げ、全国の実力剣士による大会を主催、運営してきました。大都市でない錦町がこのような剣道大会を取り上げ、続けてこられたのは、全国でも珍しいケースです。錦町の剣道振興への功績により、新春の武道協議会において団体表彰されます。
(9)全剣連役員改選で業務体制を整備
6月には任期満了による役員改選が行われ、会長再任のほか、一連の人事が決まりました。副会長の入れ替わり、常任理事の若返りもあり、全般的に実務型の構成になりました。この他審議員の大幅入れ替わりが目立ちましたが、剣道界の人材の新旧交代を反映しています。11月には実業界などのトップの方8氏を顧問に委嘱、今後諸般の助言を戴くことを期待しています。
(10)国士舘大学寮で不祥事、剣道部解散
ここで取り上げるのに最も気が重いニュースです。9月に国士舘大学寮で、上級生による暴行によって、碩山国寛君が死亡する傷害致死事件があり、刑事事件として裁判が行われています。剣技の上達を超えて人の錬成を目指すべき大学の剣道部寮における事件として、許すべからざることです。大学は非暴力宣言を出し、剣道部を解散しましたが、名門の誇りをもつ同大学剣道部関係者、とくに学生側からの反省の実が挙げられることを望みます。剣道を志しつつ犠牲者になられた碩山国寛君に哀悼の意を表します。剣道界にこのようなことが起こる温床があるとは考えたくありませんが、もしあるとすれば厳に戒め、正すべきであることは言うまでもありません。
昨年も戦前、戦後の剣道界を支えて下さった、多くの長老を失いました。まず前会長、相談役景山二郎氏が6月に急逝、続いて、称号・段位制度改革に熱意を燃やされた土田國保氏が闘病の末7月に亡くなられました。長年剣道界に尽くされた相談役の小笠原三郎氏(6月)佐伯太郎氏(8月)佐藤毅氏(9月)剣道界最長老顧問、佐藤貢氏(9月)審議員の中西康氏(8月)元審議員の中村伊三郎氏(11月)顧問の大島友治氏(4月)、功労賞を受けられた松川久仁男氏(7月)の諸氏が逝去されました。この他世を去られた多くの長老に対し、生前のご功績を謝し、謹んで哀悼の意を表します。
明るいニュースでは、前審議員國松孝次氏がスイス大使に就任されたこと、中村龍夫前副会長ほか何人かの方が叙勲の栄に浴されたことを挙げておきます。