例年のとおり全剣連は年始めとともに、14年度事業計画と予算編成の準備に取り掛かります。来年度は全剣連設立50周年を迎えますので、このための事業の具体化や、不況期の中の事業収入の見積もりなど検討課題となります。
13年度事業では、1〜3月に予定されている、強化訓練講習会、杖道地区講習会、勝浦や大阪での社会体育指導員中級講習会のほか、海外関係の指導者講習への講師派遣なとが続きます。
さらに来年度計画についての検討、審議を求める、いくつもの会議開催のほか、来年度初頭の事業の実施要項にも取り組みます。
昨年に続いて、正月年頭の主要新聞の社説などの論調をまず振り返ります。今年は昨秋のテロ事件以後の情勢下の日本の在り方、経済不況への対応などへの心構えに関するものが目立ちました。
東京新聞は昨今の混迷の世界の中で人類の融和を進めるため、地球上の貧困を無くすため先進国の支援を増やすこと、不足であった異文化を理解し合う活動強化を説きます。一歩おいている毎日は、市民やそのグループが、自分達で問題を解決しょうとするうねりが高まっていることを指摘し、これを大事にすべきと説きます。
果断な言葉がもてはやされる今日、先への展望が明らかでないことへの危険を強調するのが、朝日の連載社説です。イスラム圏の欧米への根強い嫌悪感の存在を指摘し、異文化への理解を超えた、民主的社会への脱皮を促す努力を強調します。そして国際活動を進め、あるいは自らの主張を訴えてきた、何人かの女性の気概と創意に続けと述べます。
より直裁的な主張をしているのは産経で、9月のテロがおこった時の多くの日本人の立場、「テロは許さない」は傍観的であり、誰かが助けてくれるだろうという依存体質を示したものとします。一方米国が取った「テロには屈しない」に見る主体性を見出します。そしてテロ機の中で反撃し共に散ったグリッグ氏を愛国者として讚える米国社会と日本とを比較し、武士道精神が今や米国に奪われた現状を嘆きます。そして主体性ある人造りへの挑戦、さらに不屈の精神確立を主張します。
読売は、テロの後に国際政治の風景が一変したこと、日本がテロ対応の国際協力に、立法手続きなどで大きく遅れを取ったことを指摘、国家的自己欺瞞といえる自衛隊や集団自衛権に関する憲法解釈を速やかに変更すべきと主張します。
さて経済不況への対応では、読売が急速に悪化しつつある日本経済に対し、政策を総動員して恐慌を回避せよと叫びます。これに関しては日経が、危機であるのに危機感が十分に生まれないことが、本当の危機であろうと指摘します。そして過度のひきこもり現象を戒め、節約して身を縮めても、ためをつくりエネルギーを爆発させることが必要。そして富と文化を生むのは政府でなく、個人、企業、非政府組織などの民間部門であることを強調します。
新聞論調のほか、日経連会長、トヨタ自動車会長 奥田 碩氏の新春インタービューの記事に注目しました。日本経済の再生には創造力のある人材が必要だが、学校での偏差値がよいことより、どれだけの人間的の経験をし、幅広い知識を持っているかを示す人生の偏差値を高めることが重要。またこのごろの日本人に闘争心のようなものがないと思う。敵の陣地を取りにいくというような気概を取り戻したい。教育も変えることが必要。こんな指摘ですが、世界に誇る企業のトップの発言には重みが感じられます。
さて剣道界としては以上の指摘、いずれも妥当なものとして受け取りますが、その中で強調された、不屈の精神、気力、闘争心、エネルギーを備えた人材が期待されていることには、剣道の役割そのものと受け止め、自信を持って人造りに邁進したいものです。
朝日は迫り来る高齢化社会への憂慮を強調していますが、年配にいたるまで実践でき、高齢者の体力、気力の増進に貢献できる剣道の役割はもっと強調してよいことと感じます。
さて富と文化を生むのは民間部門であることを認識して対応すべきとする日経の指摘は、剣道界にも通じるものです。全剣連、都道府県剣連などの各種剣連は、ここでは政府部門であり、剣道界を支え、延ばす真の活力は、個人、道場、学校、地域の剣道グループの現場から生まれること、経済活動における民間部門と置き換えることができます。連盟というものは、本来それらの現場の活動がしやすい秩序を作り、また障害を除くことなどが本来の役割であることを改めて強く認識すべきです。
新規則を施行して3年目を迎えます。制度の定着と運用の改善には、次々と取り組んで前進しつつあります。一方受審者の便宜をはかる面で、審査日程の休日利用を増やすなどの措置を進めていますが、真に必要なことは、適正・妥当な審査を行うことです。このための施策は、審査の実績を分析・評価しながら検討を進めています。
当面取り組んでいるのは、剣道形審査の改善です。これまで剣道形審査は合否の基準がかならずしも明確でなく、審査会場別のムラも目立ちました。そこで剣道形の審査を、実技審査の審査員と切り離し、別立てに行う方法を検討します。これにより実技合格発表の後、ただちに形の審査を行い、同じ審査員の目で、形の審査を行えば、審査の質の向上が期待できるほか、受審者の拘束時間も短縮するなどの利点があります。早急に検討を進め、5月の剣道六、七段審査からの実施を目指します。
つぎに受審者の増加に対し、熟達した審査員の数に限りがある八段審査において、第一次審査を現在の7人より少ない人数で行うことの可能性について、審査結果に基づいて検討しています。
暮れの新聞、雑誌に違った分野での実績で、紹介されていた剣道人の記事が目に止まりました。
(1)まずは大ヒットした新型小型車ホンダのフィットの開発責任者、松本宜之さんです。成功の秘訣を雑誌などに問われて、「理由をあえて探せば剣道の守破離かな」と答えられた由、高校時代に打ち込んだ稽古を1年半前から再開、休日に小学生のご子息とともに汗を流されるそうです。(12月30日、朝日「ひと」欄)
(2)彫刻家の豊福知徳さんの「長すぎたイタリア」という随筆が文芸春秋新年号に掲載されています。内容は40年を越えるイタリア滞在になった経過と自身への影響を淡々と記されたものです。同氏は国学院の剣道部で修業もされ、戦後彫刻に進まれ、一家を為した方です。剣道七段も取得しておられ、イタリアで剣道の面倒も終始見て、剣連会長もされました。帰国された時にはよく全剣連を訪ねられ、昨年4月のボローニアの欧州大会の折にもお会いしました。
(3)最後は筑波大学生で、昨秋の全日本学生大会で、主力選手としてチームを優勝に導いた鳴本敬一郎君です。「伝統芸能に新風を送り込む−和の若き才能」という週刊朝日の新年号の特集の中で、俳句、碁将棋、琵琶尺八、箏尺八などの若手に並んで、武道では剣道だけから取り上げられました。この取り上げられ方には多少の戸惑いも感じますが、面白い企画と感じました。筑波大の選手といえば、剣道専攻を思い浮かべますが、同君は高校時代から大会で大活躍のあと、医学専門学群に挑戦入学するという進路を選びました。前記の方と同じく、剣道とともに、剣道を傍らにおいての文武両道の人生を築いて行かれることでしょう。
「剣窓」の昨年の年間索引は1月号に出ていますが、「まど」の内容は1行で済まされて、筆者にも内容が思い出せなくなりました。ここで毎月のポイントを、抜き出させて戴きました。
1月号 |
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バターの国産化を成し遂げた剣道人佐藤 貢さんの逸話 |
2月号 |
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年初の新聞論調と剣道界 |
3月号 |
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元国士舘生事件の判決を踏まえ、剣道界は何を汲み取り、何を為すべきか。 |
4月号 |
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初級者のための剣道基本形(仮称)の趣旨と定義の案 |
5月号 |
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九州での特色ある二大会 |
6月号 |
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京都・大阪での行事総括 |
7月号 |
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執行部2年間の取り組みを顧みる |
8月号 |
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役員改選後の新体制による事業の方向 |
9月号 |
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普及・指導の見直しと充実の方向 |
10月号 |
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アセアン大会の所見と国際剣道普及の視点 |
11月号 |
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全剣連設立50周年記念事業の骨格 |
12月号 |
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剣道特別功労者の指名・選手権大会のデータいくつか。 |