世界はイラク戦争で揺れ、東アジアでは北朝鮮の挑戦的外交が目立ちます。国内は経済不況と先行きの不透明で、世間お互いに溌剌たる気風が見えないこの頃です。この中季節は暦のとおり春を迎え、九段坂、北の丸、千鳥ガ淵の桜は殊のほか見事な花を見せてくれました。全剣連も新年度を迎え、各剣連とも手を携えて、平成15年度の活動を進めます。
3月19日の理事会、評議員会の議を経て、新年度の事業計画、収支予算が決定しています。ポイントだけご紹介しておきます。
事業の基本は前年度と変わりません。検討を重ねてきた成果が講習の場に参入し、研究を通じて磨かれた講師による充実した講習を展開、中央、地方を通じての指導、普及活動内容が向上し、全国の剣道に及ぶことを目指します。重点は普及活動の質的充実です。特別事業である社会体育指導員養成講習会は、さらなる普及を目指し、受講者が参加しやすいよう受講料の値下げを行います。そしてこれを補うための支出予算を計上しました。
さて審査の適正な実施は引き続く重点であり、その中本誌に掲げる称号・段位審査規則の一部改正を決定しました。これに基づく的確な実施を進めます。新年度の検討事項としては、規則改正時に残された課題、各剣連に委任している五段以下の審査方法の検討に着手することになります。また海外で称号への関心が高まっている状況に対応することにも留意して対応します。
さて大会では、新たに全剣連主催大会として再発足する選抜剣道八段大会のほか、7月に英国グラスゴーで開催の世界剣道選手権大会の円滑な実施を目指しますが、別掲のように日本の出場選手決定しており、選手の強化、派遣などの費用を計上しています。
全剣連設立50周年記念事業はおおむね終了し、費用面では整理の段階ですが、出版関係でのずれこみがあります。しかし販売収入が今後期待され、事業としては回収段階に入る予定です。
また記念ビデオの作成に止まった「映像による博物館」と、これから具体的に進む「剣道人殿堂」がありますが、これらの費用は記念事業に寄せられた、浄財を当てさせて戴きます。
記念事業として取り上げてきた、剣連業務の電算化は、前年度中に9県の剣連で導入が実現し、ようやく全国の半数を越えましたが、なお残された剣連があり、助成措置を継続します。
以上が新年度の方策、予算の目立つものですが、この他の費用については、現下の社会情勢に配慮し、支出すべきものは取り上げますが、最大限の節減、合理化を進めていきます。
これらの方針で、計上しました一般会計の当期収入は、608百万円、これに前期繰り越しを加えた収入予算は676百万円、これに対する支出予算は603百万円で、いずれも50周年事業を織り込んだ、前年度より67百万円余り少ない額になっています。
4月13日名古屋市総合体育館で開催された表記大会は、26回に亙って続けられた明治村大会を引き継いだものですが、全剣連の手で出場選手と審判員を選び、生れ変わった大会です。予想通り充実した内容の大会となり、第1回大会として全剣連の歴史を飾るものとなりました。全日本剣道選手権大会の優勝経験者7名、同数の入賞者を含めた豪華な顔触れの大会でした。昨秋の選抜八段戦の一、二位の選手が一回戦で退くなど、伯仲の魅力ある試合が続きました。4強には九州出身の東日本剣士が揃い、40才台の決戦の後、西川選手が初優勝を飾りました。内容ある試合を展開された全出場剣士の健闘に敬意を表させて戴きます。
明治28年の大日本武徳会の創立とともに始められた、演武大会を継承したこの大会、今年で第99回となり、年齢でいうと白壽を迎えています。今年はいくつかの配慮を加えました。
かねて大会の締めくくりを盛り上げてはとの声に応え、今回は最後に「年代別特選試合」を設けました。これは40才台から70才台までの試合6組を選んで行う、今年の注目試合といえましょう。つぎには参加者の日程への配慮です。剣道七段教士の立ち会いは5月4、5、6の3日間に亙っており、組み合わせの発表まで何日に演武することになるか分りませんでした。今回申込に際し、4日に演武を希望する人に申し出て貰ったところ、130人余りの希望がありましたので、これに応えて組み合わせを決めました。
つぎに事務的に亙りますが、これまで演武大会の出場者から選ぶ慣例であった、5月の審査会の審査員、大阪の都道府県対抗剣道大会の審判員には、交通費は支給しないことになっていました。これは財政が苦しい時代、全剣連は剣道人の奉仕精神に依存せざるを得なかったことにより協力して貰っていたものと思われます。しかし審査会や大会は、演武大会の付帯行事でないこと、審査員、審判員は選考によって、適格者を選ぶ方針が立てられています。
審査、審判にあたる地方から来られる方々にのみ負担を課するこれまでの慣行はこの際見直すことにしました。この措置を取ることによってかなりの支出増加になりますか、払うべきものは払うとした新年度予算の方針により実行することにしています。
かねて費用増大に悩む各県から簡素化が要望されていた国民体育大会ですが、規模縮小の具体案作成の段階に入り、日本体育協会において出場選手枠の削減が行われることになりました。具体的には剣道の場合、平成20年の大分国体から、現行の選手枠が19%削減されます。具体的には少年男子、女子の出場県を減らすことなどによって賄うことにし、理事会、評議員会に報告、了承を得ました。国体簡素化の趣旨は理解するところですが、各競技団体ごとの削減割当について、体協案の作成経過、結論には全剣連として不満を表明せざるを得ません。つまり全体の削減率が15%であるのに対し、剣道は平均以上の削減を蒙り、しかもその理由が納得致しかねるものがありました。これについては担当役員の方で折衝に努め、一部回復を実現しましたが、大局的観点から矛を納めました。その経過については別に報告して貰います。
規則改正については3月19日の理事会・評議員会の議を経て、執行部案のとおり決定されました。剥奪、復活関係の条項は新年度から、これ以外の審査員の数などについては、5月の審査会から施行されます。早速4月8日に綱紀委員会が開催され、諮問中であった2件についての処分が答申されました。
その他の改正についてはすでに何回かお知らせした所で、今後全剣連および各剣連で整然と実施されることを期待しております。ここで今回の改正で付け加えられた、審査員の責務に関する条項について一言します。内容は本号に記載されているところをご覧戴きますが、とくに細則六条のAに、審査員が守るべきこと、やってはならないことを具体的に記載しています。
なぜいまさらという感想を持たれる方もおられましょうが、これらはとくに近年必要を感じてつけ加える条項というより、現行の規則体系に元来規定しておくべきだった部分を補完したものです。受審者に対して権限を持つ立場にある審査員が守るべき、ここに掲げられた事項は、社会通念上当然のこととして理解戴けるものと考えております。
50周年記念事業の最後を飾る2点の出版物が、印刷段階に入り、4月中に完成、発売の運びになります。「五十年史」の方は、總説、各論、記録、資料、各団体からの寄稿、年表などから成り、合計350ページの本で、50年の流れを記した總説は私が引き受けてまとめています。全体の出来栄えは、記録部分を含め資料的価値はあるものと考えています。
遅れて具体化することになった「剣窓スペシャル」は、これまで10年にわたる「剣窓」の記事の中から、続き物や剣筆など、捨て去るに惜しい記事を纏めて再録して出版する物です。本誌の巻末に披露されているように、装丁などに大胆な工夫を加えた、全剣連の出版物としては型破りの全272頁オールカラーの見事な再録本です。「剣窓」読者の方も、こんな記事があったのかと、思いを新たにされることでしょう。ご期待戴くとともにご愛読をお願いします。