ようやく秋も本番となり、埼玉国体を迎えましたが、開会式が行われた日の夕刻、中越地方を襲った直下地震は、長岡、小千谷地区に大被害を与え、多くの罹災者、犠牲者が出たこと、まことにお気の毒でした。剣道関係者にも被害を受けた方もおられると存じます。これらの方が立ち直られることを祈念し、また国、自治体の対応が速やかならんことを期待します。全剣連はさしあたりの関係者への見舞い、応援の一助にと見舞金を新潟剣連に託しました。
予想が難しいことを地で行った今回の選手権大会での鈴木剛選手(千葉県)の優勝でした。もともと本命なき戦いと見られており、「剣窓」前号の大会予想に名の出た23名の選手の最後に、不気味な存在として付記しておりましたので、編集子も辛うじて面目を保ちました。
これまでの実績などから有力視されることなく大会に臨み、混戦を制して天皇盃を手にした、鈴木選手の健闘と無欲の勝利が目立つた大会でした。
大会参加選手の構成を見ると、警察官の比率がさらに高まって、64名中、50名を占め、ベスト8も三位に食い込んだ溝口選手(愛知県、刑務官)を除いては警察官であること、また全選手の9割が大学卒業者であることが目立ちます。
観戦しての印象が、間合いの取り合いと打たれまいとする守りを固めた試合が主流で、これを突破する鋭い攻め技がほとんど見られなかったことは、このところ停滞している学生剣道の風潮を色濃く反映しているものと見受けました。
つぎの時代を背負う若手の台頭も今回は見られませんでした。
入賞者はいずれも30歳台、優秀選手で表彰された選手の中の若手は、25歳の小川(香川)、濱田(静岡)の両選手を数えるだけの状況には物足りないものを感じました。
全般を顧みると、選手はそれぞれ折り目正しく精一杯戦い、内容的にも勝負として興味ある熱戦が見られ、観客を喜ばせる見せ場も多かったと思います。それは多とするものですが、多くの方の尽力で開催された大会を終わってみて、上手さは見えても、それを抑える強さで満場を唸らせる場面が見たかった気がします。これで良いのだろうかと満たされない気持ちが残された大会というのが、率直な感想です。
国体は戦後始められた総合体育大会で、本年で59回目を迎えます。日本体育協会によって開催される大会には今回の参加競技が39種目を数える国民的行事で、総合開会式には毎回両陛下の行幸もあります。競技は開催県の各地で行われ、剣道はその中の一つであり、全剣連は主管団体の立場にあります。それぞれの種目による総合得点で都道府県の順位が決まるので、各県での力の入れ方は大きく、行き過ぎの弊害も指摘されています。
また地元市町村の会場争奪戦も熾烈で、剣道のように大会場を要しない種目は特にその対象になりやすく、少年の部と成人の部を別にして2ヶ所で行うこともしばしばで、主管団体の運営を困らせることになります。
地元の方にとっては一生に一度のチャンスで、力の入れ方、地元の歓迎のヴォルテージは毎回高いものがあります。また公式には各種目とも競技会として行われますが、剣道界はこの呼称を嫌って、剣道大会として行っていることをご承知おき下さい。
さて今年の剣道大会は埼玉県の西の秩父市の文化体育センターで、昨年全日本居合道大会が開かれた施設です。秩父市は高野佐三郎氏の出身地でもあり、昔から剣術の盛んな土地柄です。大会開催に当たっては地元秩父市には多大のご支援を頂き、市民の方々にも暖かい歓迎を戴きました。また埼玉剣連の皆様には大変お世話になりましたこと併せてお礼申し上げます。
大会には例年皇族の行啓がありますが、今回は3日目午前に高円宮妃殿下がお成りになり成年男子の試合を熱心に観戦戴きました。
大会の結果は埼玉県が4種目のうち3種目を制覇しましたが、人材の多い実力県が、懸命な強化をも行ってきた結果を反映した順当なものだったと思います。
戦後直ちに始められている国体が第59回を数えるのに対し、剣道大会が第50回であることに注意して戴きます。これは占領下にあった時期、剣道の団体活動ができなかったこと、さらに独立後の加盟手続きなどから、正式種目として参加したのは昭和30年の第10回国体であったからです。戦争の傷跡といえましょう。
11月2日の理事会、評議員会で例年どおり平成17年度の行事予定を内定しました。 来年3月に決定されます。以下いくつかのポイントを挙げます。
まず5月の大阪、京都の一連の行事は、ゴールデンウイーク中に収めるため、演武大会の日程を1日繰り上げました。都道府県対抗剣道大会は5月1日に、京都での剣道六・七段審査は4月29、30日になります。
講習事業では、担当剣連と共催してきた地区講習会を取り止め、剣連ごとの計画に全剣連が講師派遣と助成を行う方式に切替わります。各剣連への照会に応じて、34道府県からの申し込みを戴きましたので、調整の上実行に移します。
社会体育指導員講習では、上級資格への講習が下期より始まりますが、細部は固まっていません。
大会では、女子剣道選手権大会が、名古屋市から静岡県藤枝市に移ります。東西対抗剣道大会は鹿児島市、杖道大会は仙台市、居合道大会は千葉市、高校剣道大会は館山市、教職員剣道大会は熊本県阿蘇町、中学校剣道大会は伊勢市、国体は岡山県大原町、津山市で行われますが、期日は本年に準じています。審査会については別掲の記事をご覧下さい。
同じ日の理事会で、佐藤 勇氏(全剣連参与)に剣道功労賞、また64名の方に剣道有功賞を贈呈することが決まりました。有功賞候補は各剣連からの推薦、また功労賞は全剣連提案の候補者について、10月28日に開催された選考委員会で審議され、受賞候補として理事会に推薦されたものです。
剣道功労賞の佐藤 勇氏は、常任理事、国際委員長や国際剣連の事務総長なども勤められ、長らく剣道の国際普及に尽力された功績に対し贈られます。
功労賞の贈賞はは12月11日の「剣道文化講演会」の当日に行われ、有功賞は例年どおり推薦剣連を通じて行われます。
このところ増勢にある剣道七・八段の受審者数ですが、秋の審査会もこの傾向が続き、東京の八段審査の申し込みは1千3百人を突破、七段も前年より増えての1千6百人と、予想を上回って準備に当たる事務方を慌てさせました。審査員の負担も増えますが頑張って貰い、立派な審査としたいと思います。ただ合格者数に定員はありませんから、受審者は力を発揮されることを念願します。
本年の新事業として全剣連が行う表彰事業ですが、全剣連の推薦基準に応じて、各剣連から合計300件を超える推薦を受理しています。
選考委員会により審査、決定されました。表彰者には12月11日に行う授賞式に代表の方に参集して戴き、表彰状を贈呈します。
(1)文化の日の選手権大会は剣道界で多数の有料客を期待する大会です。今年の入場券の売れ片はおおむね前年並み、アリーナ席は完売、一・二階席は若干売れ残りましたが、合計有料入場者は6,200人という程度です。ただ二階席は中学生以下に無料で解放しており、今年は来場者が多かったように見えました。主催者、招待者を加えて9,000人程度の方が親しく観戦されたと見ます。
(2)天皇盃を受けられた鈴木剛選手のご夫人は、全剣連事務局員で総務担当の鈴木淳子さんです。目下産休中ですが、当日は二か月の瞳美さんを預けて応援に見えました。事務局の全員が、鈴木選手を応援したに違いありません。
(3)事務局OBの亀澤 優さんが叙勲の栄に浴され瑞宝双光章を受けられました。鬼刑事として鳴らした警視庁時代の功績に対するものです。