今年の元日の社説を読み物的に見ると、2紙が1,300年前の歴史を取り上げて、所論を展開しているのが目に付きます。
『毎日』は百済救援を行った水軍が白村江で惨敗して大和政権が置かれた窮状を現在の日本の状況になぞらえます。しかもその状況に対応しつつ平城京を建設し、国際的に開かれた時代とした大和政権に、現在の外交・経済危機の時代をなぞらえ、「発信力で未来に希望を」と説いています。そして発信力を高めるには、外交の基軸である日米同盟の深化が必須であると締めくくっており、ここではあまり現政権の政策への批判はありません。最後に発信力のため文化の価値を強調していますが、剣道の文化価値もここに含めて強調してあれば、なお良かったという感を受けます。
『産経』も同じ歴史事実から愛国心を説きます。白村江の敗戦で捕虜になった大伴部博麻(おおともべのはかま)が唐に連行され、そこで知った唐の日本侵攻計画の情報を祖国に知らせるため、身を売って得た資金で、仲間を帰したという『日本書紀』の記事を取り上げ、この勇気と覚悟が国の危機を救う原動力であるとします。現在の危機のもと国民を守り、国益を実現するために、「友愛」より「国思う心」で難局を乗り越えることを鳩山首相に要望しています。
さて「未来への責任」を掲げ、「繁栄と平和と地球環境を子や孫にも」と説くのは『日経』です。ここでは本年全員還暦を迎えた、1947年から49年までに生まれた団塊世代の670万人の人々を例にとり、高度成長期に育ち、日本の繁栄を謳歌した世代の子や孫が、より幸福な人生を送るためには、産業・税金・社会保障などでの改革、政府の規制の改正や、人材養成のあり方の転換など多くの改革が必要なことを主張します。また平和維持のための日米同盟のあり方の再確認などの重要性をも説いています。
多くの国民が、景気や福祉の先行き、日米関係などに不安を胸に新年を迎え、日本の将来に期待より懸念を持っており、その主な原因は現政権がこれらへの中長期の国家戦略を欠く上に、当面の進路すら国民に明示できないことにあると酷評しているのは『読売』で、タイトルに「ニッポン漂流を回避しよう」と述べます。
外交では「日米基軸が国益に沿う」として、日米同盟が日本の安全保障の生命線であると主張し、鳩山首相がいう日米対等な関係を目指すなら、自主防衛力の抜本的強化が必要になり、財政面、周辺諸国との懸念の増大などを考えると現実的な選択であると説きます。
一般政策では、非常時は大胆な政策をとり、明日への責任を果たすことを強調しています。
『朝日』は日米同盟関係を中心に取り上げますが、米国のアジア・太平洋の戦略の立場からして、日米同盟は重要であり、この戦略に役立つ在日米軍と日本が提供している基地の存在を見れば、必ずしも「片務的」とはいえず、オバマ政権との間がきしんでいる現在、長期的観点で、同盟の大事さを論じ合う好機でもあるとします。
さて最後に取り上げる『東京』は、理念的で「支え合い社会の責任」を掲げます。今次の世界的不況を資本主義による市場原理主義の行き過ぎによる社会の行き詰まりによるものとし、また昨年の政権交替を歓迎し、子供手当てなど内閣の新政策を評価していますが、今後必要となる財源については、助け合いで行くべきと、理念的に片付けています。
以上簡単に展望してきましたが、各紙の性格も読み取れましょう。
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