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平成23年02月号 第283回

(財)全日本剣道連盟 会長 武安義光

  日本海側を中心にこの冬は各地で豪雪に見舞われ、被害も報じられています。一方、太平洋側は典型的な冬型気候で好天気です。東京では気温も下がり冬らしい天候ですが、好天に恵まれ良い正月を過ごすことができました。新年の行事も大体終えて、各地で寒稽古も盛んに行われている時期と思います。去る1月11日(火)の日本武道館には多数の剣士が集まって、気合のこもった初の合同稽古が行われました。寒気にめげない錬成を剣道界は積み重ねて行きたいものです。

  年度末も目前になり、新年度の事業計画の立案に向けて、各委員会・担当部門が案を練っています。またイタリア・ノヴァラでの第15回世界剣道選手権大会を控えて、強化訓練にも力が入ってきています。特に第三期を終える通称骨太剣士養成コース(選抜特別訓練講習会)では最後の訓練を世界大会への強化剣士と合同で行い、今後の発展を期待しての仕上げを行います。

  昨年に続く特別の業務は、新法人体制移行の仕事です。すでに定款試案を提案していますが、予定も決まっておりますように、各地区に出向いての説明会を行ったうえ、成案を得て本年度末の決定を目指し、続いて新法人としての役員案も固めて申請し、来年度に認可を得て、新法人としての発足に持ち込むことを予定しています。

  さて混迷を続けていた政界は、菅 直人首相が活路を求めて通常国会を前にして1月14日(金)に内閣改造に踏み切り、参議院でのねじれ態勢を踏まえて、国会運営の改善、予算と重要法案の成立、長期方策の確立を目指しています。対立が伝えられる民主党内の運営が収まり、党利・党略を離れ、バラマキが優先していると見られる政策に代わって、国の安全保障に配慮した、長期的に進むべき道が打ち出せるか、多くの国民に、残された期待に応えてもらうことを願いましょう。


年頭の新聞論調に見る

  今年の元日の各紙の社説は、日本の置かれている危機的状況への認識に基づいて述べられ、そのための対応策も大体似ています。

  以下例年のように大筋だけ紹介します。

  一昨年9月の政権交代からの懸念すべき政治現象として、【読売】は「日本の存立にかかわる外交力の劣化と安全保障の弱体化」を挙げ、いくつかの中露の行動を例示し、それを許したのは基軸である日米同盟をおろそかにしたことによると指摘します。

  日米関係と同様、日本の浮沈を左右するものとして、米国を始めアジア・太平洋の9カ国が年内合意を目指して交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)の取り扱いで、日本は参加を急ぐべきと主張します。乗り遅れれば自由貿易市場の枠組みから締め出されることになるのであり、農業関係者の反対から協定に乗り遅れては困るとします。

  「長い経済不振の中、少子高齢化と財政危機が進むとともに、日本周辺の安全保障環境が変化し出している」。この危機から脱出するのに、迷走する政治に望む最小限の事として「税制と社会保障の一体改革」、前記の「TPPへの参加」の2点を挙げているのが【朝日】です。現在の危機の原因として政治の責任を以下痛烈に批判しているのも朝日です。

  「ムダ退治と予算の組み替えで、財源はいくらでも出てくる。そういってあれもこれもの公約を掲げ、民主党は政権交代を実現したが、財源が空手形だったことは隠しようもない。甘い公約は疑い、苦い現実を直視することが大切であることを、国民は学んだ」。


具体的対策いくつか

  読売は財政破綻を防ぐために、安定財源を得るため消費税増税は不可避であるとし、菅首相は民主党公約のマニフェストを撤回し、「バラマキ政策の見直しを約束したうえで、消費税率の引上げを野党側に提示し同意を得るよう汗をかくべき」と主張します。

  朝日も同様のことを主張します。「もう財政がもたない」との見出しのもと、「民主は公約を白紙に」し予算案を大幅に組み替える。そうした妥協に与野党ともに踏み出す覚悟が必要と述べます。

  これらの問題意識をほぼ同様に持った立場に立って、「これから1、2年が日本再生の最後の機会になるだろう」とするのが【日経】で、このためには指導層と若い層の意識の改革が必要と説きます。「アジア諸国に追われてはいるが、日本は技術に強い工業国、各国と競いながら腕を磨けば成長の余地はある」。なすべきことは「経済開国と国内の改革であり、それはまさに明治人が挑み成し遂げたものだ」。とりわけ急がれるのは「TPPへの参加を中心とする貿易の自由化である」と主張し、そのためにも「農業の改革が欠かせない」とします。経済再生の機会を生かせるかどうかは「多分に政治家次第」とし、「外科手術が必要。痛み止めを与えるといった政策を民主党政権は自民党政権と同様に続けている」と批判します。「嫌われても嫌われても、必要な政策を断行するキャメロン英首相を見習うべきだ」とします。

  当然の事ながら再生の一方の主役の企業経営者の意識改革と奮起を促します。「保守的な経営が、働き手の潜在力を殺していないか」政治家と経営者は、日本経済のこの大転換期に極めて重大な責任を負っていることを自覚して欲しい」と迫ります。

  日経はさらに2日以後のシリーズで「グローバルに活躍できる人の養成」に続いて「技術の囲い込み排し世界市場を目指せ」と述べ、この中で国内メーカー約40社が始めている、直流給電の規格づくりの例を挙げています。続いて「自由化に耐える改革で農業の自滅を防げ」、「成長へ人材と投資を世界から呼び込め」と説きます。

  さて元気を無くしているといわれている日本の底力を江戸時代の例を挙げ、元気にするために、いくつかの課題を挙げ、解決の道筋を付けることが必要としているのは【毎日】ですが、その課題については先に取り上げたものと共通のものが多いので繰り返しませんが、「歌麿、写楽などの絵師の登場を可能にした蔦屋重三郎のように、人々の元気と底力を引き出す仕掛け人を生み育てることが大事だ」と結んでいます。

  【産経】は昨年倒れた鎌倉・鶴岡八幡宮の大銀杏に見られた空洞化のように、日本も空洞化が進んでいると思えるとし、日米安保体制を例に挙げています。その要因は「空想的な憲法に基づく、一国平和主義から抜けだせないことにある」とします。しかし大銀杏から新芽が出ているように、日本には芯が残っている。それは皇室に代表される伝統や、勤勉・礼節といった国民精神などに形容されるものであり、そして底力を担うものは創業100年を越える2万余の企業とします。その中の1つとして世界の原子炉容器の8割を造っている室蘭の日本製鋼所を挙げています。ここは日本古来の刀剣造りもこれに繋がるものとして続けていることを強調します。

  そしてこのような芯を残した根株から、日本経済の新芽が育つことを希望としています。

  最後の【東京】は、理想主義の色濃い論を述べています。新興の諸国がナショナリズムを高める環境が厳しい中、「日本は『戦争放棄』を盛り込んだ憲法を擁し、核なき世界を先取りする、非核三原則を掲げてきています。これは今後国際社会に日本が貢献するときの足枷ではなく、平和を目指す外交の貴重な資産です。脅威には同盟国、周辺国と連携し、現実的に対応しながらも、平和国家の理想を高く掲げ、おろそかにしない。これが日本が世界から尊重され続ける道」と説きます。

  以上マスコミが掲げた、本年の日本の課題を紹介しましたが、剣道人の立場で参考にすべき点は取り上げて前進を図りたいものです。


昨年の初段登録者ほぼ横ばいの微減

  平成22年歴年の初段登録者は、前年より457名減の3万7千955名で、1%余りの減少ですから横ばいと言って良いでしょう。2段以上は増加しているのは望ましい傾向で、生涯剣道の実を挙げつつあるものと、今後に期待を持っています。


断  片

  本年上期の全剣連行事の内容も固まって行きます。4月に名古屋で行われる全日本選抜剣道八段優勝大会の選手も決まりました。ゴールデンウィークの行事、全日本都道府県対抗剣道優勝大会の要項も固まり、前年と同様に行われます。京都武徳殿を中心に展開する全日本剣道演武大会、称号・段位審査も前年と同じ日程で行われます。

  詳細は次号で発表されますので参考にして参加されることをお願いします。


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