試合・審判を実例として取り上げます。事業計画の重点方策には「試合内容の充実と活性化を図る」と掲げています。個別の分野として取り上げる重点事項には、「規則とその細則、運営要領の適正な運用を図る」と記して4項目を掲げますが、「(1)審判として適正な試合運営能力を養い、指導力の向上を図るため、実践的研修を行う」と記しています。このことは基本的な方針としてどなたも納得される所でしょうが、その展開の沿革について述べます。
60年前に剣道が再発足して、まず取り上げられたのは、試合であり大会でした。このため翌28年3月に新しい『試合・審判規則』を制定しました。これは「純然たる体育・スポーツとして再出発する」という新しい剣道の在り方に基づいたもので、現行の基本になりました。その後、剣道振興の推移に応じて多くの補充・修正が加えられましたが、昭和50年に制定された『剣道の理念』の趣旨を実現すべく、行き過ぎた競技化の傾向を是正しようと改正を行い、昭和54年4月に施行しました。
この規則によって試合の運営を重ねてきましたが、平成に入り全剣連は基本的精神も盛り込み、「規則の体系化、簡素化、国際的にも理解できる規則体系の完成」を目指して、本格的改定に取組み、平成7年7月に改定が実現しました。
この規則によって戦後の規則は面目を一新し、改定は実質的に完結したといえます。全剣連はこの規則の普及を通じて、現場における試合内容の向上のための講習の充実を進めました。しかし効果を全国的に上げるのは、なかなか困難であることが分かって来ました。
そこで普及のための抜本的改善策の検討を行いましたが、結果迂遠なようでもまず講習の中心となる人材の養成・レベルアップから始めることとしました。それらの人を講師として活用し、さらに地方に派遣することを通じて講習の充実、人材の育成を図るという、段階的、また連鎖的発展を狙いました。
実はこの方策は終戦直後の破綻に瀕していた日本経済の再建のため取られた経済政策―傾斜生産方式―にヒントを得たものです。
この方策には各講師要員も応えて頂きました。さらに講習事業の軸足のウエイトを地方に移し、全剣連が各剣連の講習会に講師を派遣する事により、剣連を援助する方策を取りました。講習の科目は剣連の希望に応じ、当初はほとんどが審判法でした。その後、一巡して指導法が増えましたが、これは審判法の講習が浸透したことによるものと見ています。
以上ながながと述べましたが、この方策は審判技術の向上に効果を収め、また収めつつあるものと全剣連は見ています。審判技術の向上は現在も、全剣連事業の重点ではありますが、軌道に乗ったと見られるこの方策を運用していくため、全剣連として大きなエネルギーを使う段階は過ぎました。事業計画の重点の在り方の推移の例として記しました。
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